作家・津原泰水(やすみ)さんの文庫本の出版中止問題は、幻冬舍の見城徹社長が5月23日に公式サイト上で「謝罪」をすることで一応の収束を見せた。幻冬舍や早川書房、他の作家たちをも巻き込んだ大きな騒動とは一体何だったのだろう。
ハフポスト日本版も、当初から津原さんに取材を申し込んでいたが連絡が取れていなかった。もしかして、ネットメディアの取材は嫌っている…?
実家がしがない古書店だった記者も、本を生み出す人たちのいざこざだけに、悲しい気持ちで騒動を見守っていたが、休日を利用して津原さんに会いに行くことにした。「もともとメディアの取材に答えるつもりはなかったけれど、お付き合いのある社や、会いに来られたら対応しています」と笑顔で迎えてくれた。
謝罪文の掲載については、「暴言を吐きながら殴りかかってきた人から、暴言だけを謝られたみたいな感じ」と複雑な心境をのぞかせる。
一連の騒動や見城氏との応酬について、そして「出版」にかける思いについて、津原さんが語った。
見城氏ツイートに、「美学がない」
「日本で一番有名な売れない作家です」
笑いながら、こう話す津原さん。
騒動のきっかけは、2018年11~12月ごろにまで遡る。津原さんが、幻冬舎のベストセラー「日本国紀」(百田尚樹著)にウィキペディアなどの記述と酷似した文章が引用されていることを、問題視したツイートを投稿したのだ。
2019年5月、あるユーザーが津原さんの「日本国紀」批判を「プロレスだったのでは」と疑う投稿をした。炎上商法で日本国紀を売るためのヤラセ批判だったのではないか、という意味だ。
「冗談じゃない」
津原さんは、「日本国紀」批判が原因で自身の文庫本が出版中止になった事実を明かし、一連の経緯をツイート。これが爆発的に拡散され、幻冬舎の見城社長がTwitterで津原さんの実売部数を暴露する事態にまで発展したのだった。
出版社は本来、書籍の売れ行きを発行部数で示すもの。実売部数は作家自身にすら明かされないことが多い。
そんな業界のモラルを破り、一線を越えた行為に及んだ見城社長には、高橋源一郎さんや倉数茂さん、平野啓一郎さんや内田樹さんら、名だたる作家や思想家から非難の声が上がった。
見城社長の対応に、津原さんは次のように語った。
「過失とは言えない。こうすれば自分は切り抜けられ、相手にはダメージを与えられるという目算で、ああいったことを書かれたんでしょう。ただ僕は、あの段階での公表で、自分にダメージが生じるとは思わなかった。ヒートアップの度合いによって自分のなかのルールを変えてしまう人物なんだな、という目で見ていました。美学がないと申しますか」
見城社長は、その後、ツイートを削除して謝罪した。
幻冬舎はハフポスト日本版の取材に対し、実売部数を晒した理由を「編集担当者がどれだけの情熱で会社を説得し、出版に漕ぎ着けているかということを理解していただきたく実売部数をツイート致しましたが、適切ではありませんでした」と伝えた。
津原さんは「担当編集者が社内でどれだけ頑張ったかを伝えたければ、その頑張りを具体的に書けばいいだけ。結果的に生じた数字は、“どれだけの情熱で”の尺度にはならない。むしろ、幻冬舎の販売能力はそんなものかと世間に思われるだけ」と反論する。
続けて「客観的に言えるのは、僕への報復として実売を曝したことにより、出版モラルの基本のキも出来ていない出版社という印象を残したということ」と断じた。
そして、見城社長の一連の行為について、あきれるように一言こぼした。
「たかが個人のツイートに対して、身代を潰しかねない真似をしちゃって……と思いましたよ」
Source : 国内 – Yahoo!ニュース