耳の聞こえない子どもたちがオーケストラやコーラスに合わせて、手で音楽を視覚的に表現する「ホワイトハンドコーラス」の活動が全国に広がっている。東京、京都のほか、今年から沖縄も活動に加わった。23日には関西で初めての公演が京都市内で開かれる。
ホワイトハンドコーラスは、指揮者を介して耳の聞こえない子どもたちに音楽を視覚的に伝え、白い手袋をはめた子どもたちが、音楽を身ぶり手ぶり、顔の表情で表現する。歌詞を手話で訳すものと区別して、手歌(しゅか)とも呼ばれる。スラムに住む貧困層や先住民の子どもたちに楽器を無償で提供する音楽教育プログラム「エル・システマ」で知られる南米ベネズエラで考案され、だれも排除しないインクルーシブ(包摂的)な芸術表現として世界各地に広がった。日本では2017年に同国出身のソプラノ歌手コロンえりかさんらが東京で始めた。現在は「ホワイトハンドコーラスNIPPON」として京都、沖縄でも活動している。
活動拠点となっている東京・池袋の東京芸術劇場でのリハーサルでは、合唱団の声隊と、手で音楽を表現するサイン隊が向き合って練習していた。オンラインで参加する子もいる。サイン隊の指揮者を務めるコロンさんの手ぶりに合わせ、サイン隊の子どもたちが表現に感情を込めていく。
「耳の聞こえない子どもたちが、完璧にリズムを合わせてくる。足から伝わるリズムで『全部わかるよ』と。音楽は耳だけで聞いているわけではないのです」とコロンさん。約40人のメンバーにはろう者のきょうだいや手話を学ぶ学生、自閉症の子どもらも加わる。だれも排除しない、インクルーシブな活動を目指す。活動を通じて、耳が聞こえない子どもたちも音楽が大好きになった。家族からは「耳の聞こえない子どもへの配慮で家から消えていた音楽が戻ってきた」と言われたという。オペラやオーケストラとの共演による新たな芸術表現としても注目を集める。昨年12月には、宗教曲の合唱、演奏で世界的に知られるバッハ・コレギウム・ジャパンの演奏会に特別出演し、クリスマス・キャロルやベートーベンの「第九」などを表現した。
日本の団体としては関西初となる23日の京都公演では、近江シンフォニエッタの室内楽の演奏で、モーツァルトの「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」、上田真樹さん作曲の合唱組曲「あめつちのうた」などを音楽、合唱とともに表現する。ろう者の演出家、俳優の井崎哲也さんも手歌の監修で加わる。問い合わせは会場の京都コンサートホール(075・711・3231)。12月には沖縄での公演も予定している。(編集委員・石合力)
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル