未就学児を英語環境で育てる「プリスクール」が人気だ。高額ながら都市部から全国に広がり、現在、各地に約800園。英語が堪能な子になってほしい、英語を使ってグローバルに活躍する人に――。親はそう願うが、子どもによってはストレスになることもある。(織田一、平井恵美、植松佳香)
東京都大田区の住宅街の一角で子どもたちの歓声がはじける。未就学児を対象にした英語の保育施設、プリスクールの大手キンダーキッズ(本部・大阪市、中山貴美子社長)東京本校。1歳2カ月から5歳児までの約100人が通う。
8月下旬、25人の年長児たちが紙や粘土による手作りの「世界の料理」のお店屋さんごっこを楽しんでいた。
日本のすし、メキシコのタコス、イタリアのピザなどが並ぶなか、諸永はるちゃん(6)はインドのカレーライスを並べた友達に「May I have a curry,please?(カレーを一皿下さい)」。傍らの英国人先生が、単語を並べただけの「Please curry」ではない会話ができているのを確認し、「良くできた」と褒めた。
2000年創業のキンダーキッズはいま、全国で26園を展開し、通園者数は4千人を超える。中山社長は「入園待ちは併願者も含めて約1千人」と話す。
プリスクール(preschool)は、もともとは「幼稚園」や「保育園」などを指す英語で、日本では主に英語で保育を行う、未就学児向け施設を総称して使われる。授業料や設備費、入学金などを合わせて、かかる費用は年150万~200万円前後が多い。中には年500万円かかるところもある。
カリキュラムは施設によって様々だ。設置形態も認可保育園や認可外保育園もあれば、私塾のようなところもある。自治体などから様々な補助金を受けていないところが大半だ。「どうしても高くなってしまう」とある運営者は言う。
国としてプリスクールの明確な定義もなく、国は施設数なども把握していない。
少子化で競争激化 突然の閉園に振り回される親子も
国際教育評論家の村田学さんによると、日本人向けのプリスクールは1990年代から増え、首都圏や近畿圏などで広がった。リーマン・ショックやコロナ禍でも伸び続け、いまは北海道から沖縄まで全国に約800園、通園者は推計約6万人。施設数は5年ほど前より約200園増えたとみる。
矢野経済研究所の調査によると、プリスクールの22年度の市場規模は400億円。少子化もあって競争は激化し、質が問われ始めている。一部で大手の寡占が進み、小規模施設が突然閉鎖され、親子が振りまわされるケースも出ている。
「経営悪化のため、来年3月で閉園します」
娘(5)を都内のプリスクールに通わせていた女性(35)は昨秋、園側から突然こう告げられた。大きな公園に隣接し、少人数で子どもをのびのびと育てる保育内容や英語環境に魅力を感じ、通える範囲に引っ越しまでした。女性は「娘を安定した環境に置いてあげられなかった。プリスクールを見極めるのは難しい」と話す。
茨城県つくば市の認可外保育施設は21年秋に突然閉鎖し、預け先を失った保護者らに困惑が広がった。同市や帝国データバンクによると、運営会社は東京都内に開いていたプリスクールも20年に閉じていた。同市の施設は少子化や同業者との競合などで収益が低迷し、運営会社は最終的に自己破産したという。
都内を中心にプリスクールなどを展開する企業の取締役は「知っているだけでも、この4月で8校ほどが閉じた」と話す。日本人保育士の不足による影響もあり、「近年は新規開校のスピードを落としている」と打ち明ける。
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Source : 社会 – 朝日新聞デジタル