大久保貴裕、東郷隆
広島市に残る最大級の被爆建物「旧陸軍被服支廠(ししょう)」について、広島県が、所有する全3棟を耐震化する方向で調整に入ったことがわかった。国の重要文化財指定に向け、有識者による検討組織も設ける方針。保存か解体かで揺れた3棟はいずれも保存される公算が大きくなった。
県は2019年12月、建物の老朽化などを理由に「1棟保存、2棟解体」の案を公表したが、被爆者団体などが全棟保存を要望。「国の重文級の価値がある」との専門家の意見も踏まえ、今年2月に見直しを表明していた。耐震化の方針などは19日の県議会総務委員会に示される見通し。
県の方針では、3棟の耐震性を確保して建物内部の見学ができるよう安全対策を進める。1階は人数制限なし、2、3階は50人程度が利用することを想定し、1棟あたりの概算工事費は約5億8千万円と見込んでいる。こうした安全対策について、文化庁はおおむね妥当との意見といい、県は今後、国の重文指定に向けた調査も行う考えだ。
近代建築や文化財保護の専門家からは、被爆建物としての価値に加え、最古級の鉄筋建築物が500メートル連なる景観が「国の重文級」にあたると指摘されている。重文指定されれば耐震化費用で原則50%の補助が国から受けられる。
被服支廠は旧陸軍の軍服や軍靴の生産拠点で、1913年に建てられた倉庫群。爆心地から2・7キロにあり、原爆投下直後は臨時救護所になり、爆心地に面した西側の鉄扉は爆風でゆがんだままだ。4棟が現存し、県が3棟、国が1棟を所有している。
県は安全対策とともに、建物のさらなる利活用策も検討する。国のほか、3棟保存を求める広島市と具体的な方向性や費用負担についても協議を進めたい考えだ。(大久保貴裕、東郷隆)
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
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