「スパイスの北島」が、4月末の廃業から一転して9日、本格的に営業を再開した。
日本の食の殿堂、東京・築地場外(以下、場外)で74年間、調味料や缶詰を専門に販売してきた北島商店は、新型コロナウイルス感染拡大の影響から、業績悪化を理由に4月28日にいったんは店を閉じたが、ゴールデンウイーク(GW)期間で180度方向を転換して、再び営業を続けていくことを決めた。
北島商店は、場外だけではなく銀座や日本橋の飲食店の調味料に関する御用達店として定着しており、4月中旬の廃業発表から大きな反響を呼んでいた。
2代目社長の北島俊英さん(77)は「もうね、すごいんだよ。毎日、電話とメール。やめないでくれ、とかじゃなくて、やめられたら困る、って言われちゃう。調味料と缶詰しか置いてないんだけど、そんなに大事にされていたのか、とみなさんの声が身にしみました」と話した。
当初、廃業する日を4月18日に設定していたが、地元場外の各店から「もうちょいだけ店を開けてもらわないと、料理がつくれない。商品の注文だけは受け付けてほしい」と懇願され、シャッターを開ける営業は25日まで、シャッターは閉めたものの注文対応はGW前日の28日まで延長した。
この“延長営業”期間で場外や常連客が大勢訪れて「スーパーやコンビニの品ぞろえと違う」「ポン酢の奥深さを教わった」「他店ではないものが北島にはある」などそれぞれの思いのこもった言葉をぶつけられた。気持ちが少しずつ変化していった。
29日からは、「永遠の連休」に入るはずだった。妻清子さん(76)とウオーキングをしていてもついつい仕事のことを考えていた。清子さんに「あなた、辞めたら何をするの?」と問われて返事に窮し、深く今後のことを考えるようになった。
結果、北島さんは「おれの人生何だったのかなぁ、と。廃業を宣言してから、いろんな人に声を掛けられて、自分だけでは生きることはできないんだ、ということを痛感した」と大勢のお客さんの声に後押しされて、まず8日に試運転で店を開けることを決めた。
迎えた8日、早朝にシャッターを開けると店外で待っていた客がなだれ込むように入店してきた。シャッターを半開きにして営業しようとしたが「廃業するなんていっておいて恥ずかしいかぎりなんですが、踏ん切りがついてシャッターを全開にして通常営業することにしました」と北島さんは照れ笑いを浮かべた。
9日から本格営業が始まった。この日は缶詰や調味料の問屋が、入れ代わり立ち代わり台車に商品を満載にして、持ってきた。ある業者は「北島商店の廃業は、本当にビックリした。でももっとビックリなのは復活したこと。本当に良かった」と忙しそうに商品を2階の倉庫に搬入していた。
北島さんは20年前、場外の商店街組合の理事長に57歳で就任。場外の長老たちと血気盛んな若手の間に入って、業者しか仕入れに来なかった場外に一般客が普通に買い物をするように導いた功労者でもあった。店は調味料を販売するため「スパイスの北島」と呼ばれたが、場外の運営に関しては世代交代のはざまでかじを取っていった「バランスの北島」だった。
市場が豊洲市場に移転し、さらに新型コロナウイルスで売り上げが激減した場外で、一度は廃業を決意し、再び立ち上がったことに北島さんは「本当にお騒がせしました」と頭を下げる。「でも、築地は各店それぞれの持ち味がある。それをお客さまにあらためて気付かされた。いつかは辞めるけど、しばらくは北島商店にしかない調味料や缶詰で勝負する。築地は何でもそろう場所ということをもっと知っていただかないと。廃業は断念します」と話した。
その横で清子さんが「なるべく、そっと、静かに再開するということでお願いしますね」と涼やかな笑みを浮かべた。【寺沢卓】
Source : 国内 – Yahoo!ニュース
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