旧優生保護法(1948~96年、旧法)の下で、知的障害を理由に不妊と中絶の手術を強いられたのは憲法違反だとして、北海道内の女性(80)と夫(提訴後に死去)が国に損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決が16日、札幌高裁であった。佐久間健吉裁判長は不妊手術の実施自体を認めなかった一審・札幌地裁判決を支持し、原告の控訴を棄却した。
今回の判決は、中絶手術についても一審判決と同様に、実施されたことは認めたが、知的障害が理由とは認められないと判断した。
控訴審の焦点は、女性が不妊手術を受けたことを、原告側が客観的に立証できたかどうかだった。
訴状によると、女性には乳幼期の熱病が原因とみられる知的障害があり、77年に夫と結婚し、81年に妊娠した。親族から「(女性は)子どもを産むことも育てることもできない」と出産を反対され、夫は逆らえずに中絶と不妊手術に同意した。だが女性は同意しておらず、81年6月に両方の手術を強制されたという。
控訴審で原告側は、女性が手術のため病院に少なくとも1泊したことについて、夫と親族の証言が一致すると指摘。当時の文献などから、中絶手術のみを行う場合は日帰りが一般的で、不妊手術は体への負担が大きいことから術後の入院が必要だったとして、女性は中絶と不妊の両方の手術を受けたとした。
女性の腹部に外見上手術の痕が残っていないことについては、旧法で認められていた不妊手術の二つの方法のうち、卵管を圧迫して縛る「卵管圧ざ結紮(けっさつ)法」で行うのが一般的で、膣(ちつ)から器具を挿入する手術を女性が受けた可能性が高いと主張した。
一審判決は中絶手術について、当時夫婦が金を借りに毎月来ていたとの親族の証言を踏まえ、「中絶が経済的理由だった可能性も否定できない」と判断を示した。
これに対し原告側は控訴審で、夫は現像所や神職としての職を得ていたことから、困窮していなかったと反論。入院中の女性が弁護団に対し「手術に同意したことはない。手術の際に金具のようなもので押さえられて、嫌で抵抗した」と新たに証言したと主張した。(石垣明真)
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル