旧優生保護法下の強制不妊手術をめぐり国に損害賠償訴訟を起こした札幌市の小島喜久夫さん(79)が、札幌テレビ放送(STV)の記者の働きかけで意に反して被害者への一時金を申請させられたとして、放送倫理・番組向上機構(BPO)に審理を申し立てていた問題。BPO放送人権委員会は16日、「人権侵害や放送倫理上の問題はない」との見解を明らかにした。小島さんは「訴えが認められず悔しい」と述べた。
小島さんは2018年5月に同法をめぐる訴訟の原告としては初めて実名を公表して訴えを起こした。
BPOによると、STVは昨年4月26日のニュース番組「どさんこワイド179」で、小島さんが一時金支給法に基づく道内初の申請者として紹介し、書類を記入したり、手続きで道庁を訪れたりする場面を放送。これに対し、小島さんは「一時金の申請を希望していなかったのに、STVの記者から働きかけられた」と訴え、放送内容の訂正や謝罪を求めて昨年6月にBPOに申し立てた。STVは「記者が申請を働きかけたことはなく、報道は公正だ」と反論していた。
BPOの見解によると、小島さんは昨年4月25日に記者からの電話で、一時金の申請に行くかを尋ねられた。それまで一時金の申請の受け付けが始まったことは知らなかった。その後、道庁に問い合わせて、裁判と一時金は関係ないと説明された。小島さんから記者に連絡を取り、翌26日に一緒に一時金の申請に行くことになったという。
BPOは、小島さんが一時金を申請したことについて「社会的評価は低下せず、名誉毀損(きそん)は成立しない」と指摘。自ら道庁に電話して説明を受けており、意思に反する働きかけがあったとは認められないとして、「放送倫理上の問題も認められない」と結論づけた。
一方で、記者は小島さんに一時金の申請書を印刷して渡し、用意したタクシーに同乗して申請に向かっていた。BPOは「本人や支援者、代理人が行うことの一部を代行しており、取材対象者との関わりで踏み込み過ぎたと評価されかねない部分があった」と補足意見をつけ、「取材対象者との関係を考える契機となる」と指摘した。
主張の対立、改めて浮き彫りに
小島さんは代理人弁護士らと札幌市内で記者会見し、「訴えが認められず悔しい。申請は真意とまるっきり違った」と述べ、STVとの主張の対立が改めて浮き彫りになった。
記者が申請書類を用意したと指…
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Source : 社会 – 朝日新聞デジタル