【宮城】この春、仙台市営の災害公営住宅(復興住宅、仙台市若林区)に住む80代の女性は、市から届いた家賃通知書を見て驚いた。駐車場代込みで5万円強だった家賃が、年度が替わる4月から、8万円以上に値上がりするとあったからだ。
荒浜小学校(同区)の近くにあった自宅は東日本大震災の津波で流され、しばらくして夫も亡くなった。仮設住宅などを経て2016年春、「終(つい)のすみかを」と思い、4K(65平方メートル)の復興住宅に移った。
市からは入居時に「今後、家賃は多少あがる可能性がある」と説明を受けていたが、予想以上だった。改めて問い合わせると、4年後には20万円近くになる見通しを示された。「こちらから聞かないと教えてくれないなんて」
問題は、世帯の「月収」だった。仙台市の復興住宅は国が定める月収を超えると、家賃が上がる仕組みだ。一緒に暮らす息子の昇給に伴い、2年前に基準を1万円弱上回った。「収入超過世帯」と見なされ、家賃引き上げの対象になった。市からは転居も提案された。
生活費はパートでまかなっている。引っ越し費用が補助される「被災者生活再建支援金」は4月で打ち切られ、転居する経済的余裕も、体力もない。
女性は今春、世帯収入を抑えるため、息子と別居することにした。家賃の値上がりは免れたが、常に、孤独死の不安がつきまとう。「お風呂で独りで死にたくない」と、入浴は家族がいる時に限っているという。
「ぜいたくをしたいとは思わない。ただ、安心して父ちゃんのところに行きたいだけなのに」。家賃通知書を見つめながら、女性は、そうつぶやいた。
市によると、市内の復興住宅に住む収入超過世帯は、5月末時点で167世帯。すでに転居した世帯もあるという。
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市は復興住宅の収入超過世帯に請求する家賃を、最終的には「近傍同種家賃」まで引き上げる方針だ。近隣の民間賃貸住宅と同程度にする。
算定には複雑な計算式が用いられる。地価や建物の入居世帯数などが重要な要素になるため、条件によっては民間住宅より高額になる可能性もあるという。
この女性宅の周辺は大型店舗が立ち並び、地下鉄駅も近い人気のエリアだ。入居世帯数も少なく、1人あたりの家賃負担額が高くなってしまうという。
市によると、復興住宅には入居時、収入制限がなかった。そのため一般の市営住宅に比べ、収入超過世帯の割合が高いという。
気仙沼市などは市独自で超過世帯の割り増し家賃の減免措置を行っているが、仙台市は実施していない。
市の担当者は「仙台には民間の賃貸物件が多く、収入に応じた転居がしやすい」と説明。その上で「復興住宅も市営住宅の一種。被災者には個別事情があることも分かっているが、住まいのセーフティーネットという側面を考えると、収入が少ない世帯を優先せざるを得ない」と話す。(申知仁)
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル