ふと、自分のおばあちゃんが浮かんだ。少し年上かなと思った。
だだっ広いドラッグストアの駐車場。
やってきた紫色の車から、高齢の女性が降りてくる。手には白い紙袋。
あの人だ。
片耳につけたイヤホンから男の声が聞こえる。
「向かってください」
もしかしたら、これってやばいことなんじゃないか。疑う気持ちにふたをして歩き出し、声をかけた。
「書類を受け取りに来ました」
特殊詐欺の被害に遭ったのは、記者(28)の祖母(81)でした。連載の第2回と第3回は、「受け子」として逮捕された21歳男性への保釈後の取材をもとに描きます。
1カ月ほど前、学校終わりに自宅でくつろいでいるときだった。
《1週間でめっちゃ稼げる仕事があるんだけど》
大学生のトモヤ(仮名、21)は、同じクラスの山本(仮名)から突然、LINEでこんな誘いを受けた。
山本は、クラスの中心人物の一人。いつも周りに友人がいる。
知り合ったのは大学に入ってから。特別仲が良かったわけではない。ただ、帰る方向が同じだったこともあって、時々たわいもない話をしながら一緒に帰ったり、食事したりすることもあった。
突然の誘い。怪しいとは思った。
お金に困っているわけではない。両親からの小遣いは月5千円、ピザ屋のバイトで月5万円。ただ、もし高額の報酬がもらえるのなら、予定している友達との旅行で豪遊できる。最新のスマホも買えるかもしれないと思ってしまった。
「仕事」の内容を尋ねた。
《脱税の手伝い。カードで金を下ろすだけ》
脱税で逮捕されたなんて話は、自分の周りでは聞いたことがない。手伝うだけなら、やってもいいかもしれない。
それに、脱税の手伝いなら、詐欺などと違って苦しむ被害者もいないんじゃないか。
一応、念を押した。
《ないと思うけど、詐欺じゃないよな》
《絶対、大丈夫》
山本も同じような「仕事」をする予定があるらしい。誘ってきた山本がやっているなら、と背中を押された。
すでに「仕事」をしたことがあるという山本の友人を紹介され、地元のカラオケ屋の前で立ち話をした。山本の高校時代の同級生という。数日間で40万円が手に入ったと教えてくれた。
本当にもらえるんだ、と舞い上がった。それに、山本もその友人も捕まっていない。安心した。
「受け子」や「出し子」のうち、実際に報酬を得た者は半数に満たなかった(2021年版の犯罪白書から)
山本から「シグナル」という通信アプリを入れるよう教わった。一定時間が経つとチャットなどの記録が消える匿名性が高いアプリだ。
どこで何をすれば良いのか…
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
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