雪崩のような展開だった。一夜の過ち、親子の別れ、兄の失踪。これが15分で描かれるのだから信じられない。
12月21日のカムカムエヴリバディは、のっけから不穏な展開となった。
冒頭の勇(村上虹郎)と雪衣(岡田結実)のシーンは、朝ドラより昼ドラ、いや夜ドラの雰囲気だった。深夜、酔っ払った勇が帰宅する場面から始まり、話は思わぬ展開へ。2人は一夜をともにしてしまう。
進んでそうなったわけではない。勇は安子(上白石萌音)が好きで、雪衣もそれを知っている。それでも、あさっての方へ行くのが人間か。好きな人が自分のものにはならない悲しみと、あきらめきれないふがいなさと。不条理のぶつかり合いが切ない。
この日の安子とるい(古川凜〈りん〉)のシーンも、不条理そのものだった。
「るいが幸せになるために、必要なことなんじゃ」
安子はるいに、雉真(きじま)家を出ることを伝える。ただ、るいはここに残るように、と。
決意を秘めた安子の表情、「いやじゃ」と戸惑うるい(古川凛〈りん〉)の涙。ドラマの山場のはずだが、長くひっぱる演出はない。さらりと場面転換し、今度は安子の兄算太(濱田岳)が登場する。
通帳を持って失踪
いつもは陽気な男だが、様子がおかしい。通帳と印鑑を持ったまま、姿を消したのだった。
それは、安子たちの新しい店、新しい家、人生の再出発ができなくなることを意味する。算太の行方を追って、安子は大急ぎで大阪へ向かう。
一人残されたるいの表情が印象的だ。唇をかみしめ、はっと前を向く一瞬のカット。何かを決意したように見える。新たな展開が待ち受ける予感を感じさせるラストだった。
あえて分かりにくく るいの目線で
るいは、これからどうなるのか。母をどう思うのか。いよいよ、2代目主人公に焦点があたり始めた。
ドラマでは、謎があえて謎のままにされている。なぜ、親子が離れ離れに暮らすのか。るいの額の傷の治療費のことなど、背景事情が少しだけ語られるシーンがあるものの、多くは語られない。
もやもやが残るなら、それは脚本の勝利だ。物語の主軸が、次第に安子からるいに移りつつある。お母さん、行かないで――。ドラマはもう、安子一人の目線ではなくなっている。子どものるいの目から見た母安子の物語だから、分かりにくくて当然。なぜ、母とずっと一緒にいられないのか。「るいのもやもや感を視聴者が共有できるよう、あえて余白を残した作りにしています」(NHK制作統括・堀之内礼二郎さん)
五角関係からのカタルシス
伏線のはり方もうまい。安子、ロバート(村雨辰剛(たつまさ))、勇、雪衣、算太の五角関係が濃厚に描かれることで、物語が数珠つなぎに展開していく。
安子がロバートと親密になる→嫉妬した勇が雪衣と一夜を過ごす→雪衣を好きな算太がそれを目撃し、自暴自棄になり失踪→算太を追いかけ、安子はるいを置いて大阪へ。
15分間に恋愛も親子愛も詰め込み、サスペンスのような雰囲気さえ漂う。絡み合った物語は、これからどうなるのか。安子とるいとはこのまま離れてしまうのか。視聴者は次の主人公るいの気持ちに自分を重ね、テレビにかじりつくことになる。そして物語は、主人公の交代という大きな山場へ――。さすが、「すべての私の物語」をうたうドラマだ。(土井恵里奈)
年末の放送は12月28日まで。年明けは2022年1月3日から放送。
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル