国際電気通信基礎技術研究所(ATR、京都府精華町)などの国際研究チームは、人間が恐怖を感じた際に活動する脳の部位と、発汗などの生体反応が出た際に活動する脳の部位が異なることを実験で明らかにした。こうした生体反応は、精神疾患の治療などで主観的な感情の度合いを推し量る客観的な指標として用いられることが多いが、必ずしも感情の度合いを反映していないことになる。
不安や恐怖を感じる場面で、強い恐怖を覚えたのか、それほど不安ではなかったのかなど他人の主観的な感情の度合いを知るのは難しい。そのため、不安の障害など感情の障害の研究では、感情を推し量る指標として、感情の変化によって起きる手汗や瞳孔の開き具合といった生体反応が使われてきた。
しかし、最近、強い恐怖を感じているのに発汗しなかったり、発汗が多いのにそれほど不安に思っていなかったりと、感情と生体反応にずれがあると指摘されていたという。
研究チームは数十人の被験者に、ヘビや毛虫、ゴキブリなど60種類の生き物の画像約3千枚を見せ、どれぐらいの恐怖を感じるか答えてもらうとともに、発汗具合を測定した。それと同時に、脳のどの部分が活動しているかを「fMRI(機能的磁気共鳴断層撮影)」で調べた。
その結果、恐怖を感じるときは脳の前頭前野、生体反応を示す時は扁桃体(へんとうたい)の活動が盛んになるなど、脳活動が異なることが分かった。感情の指標として生体反応を使うことに疑問を呈する結果となった。
研究チームによると、不安の障害や心的外傷後ストレス障害(PTSD)などの精神疾患では、感情と生体反応を同一のものとみなして治療法の開発が行われてきた。今後、二つを別のものとして扱うことで、新たな切り口の治療法の開発が期待できるという。
ATRの川人光男・脳情報通信総合研究所所長は「恐怖の意識は前頭前野に局在していた。PTSDなどの新たな治療法につながる知見だ」と話している。
研究成果をまとめた論文が、国際科学誌「Molecular Psychiatry」のオンライン版(https://doi.org/10.1038/s41380-019-0520-3
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
Leave a Comment