今年3月以降、性犯罪の無罪判決が相次いで報道された。ネット上では判決に対して批判の声が上がり、刑法改正を求める署名活動や性暴力と判決に抗議するデモも起きた。
性犯罪をめぐる刑法の規定は2017年、110年ぶりに大幅に改正された。その際の附則で、施行後3年をめどに、必要がある場合には実態に即して見直しをすることが盛り込まれた。
「3年後見直し」が来年に迫る中、今回の無罪判決から現行の法律をどう考えたら良いのか。
長年、女性の権利と性暴力の問題に取り組んできた角田由紀子弁護士は5月23日、都内で開かれたイベント『性暴力被害者を孤立させない法律を』で「法務省は再改正は『必要があれば』と条件をつけている。改正が必要だということを声を大にして言わないと、改正はされないと思う」と呼びかけた。
●「現行の司法のシステム批判が必要」
角田弁護士は「次の刑法改正についての議論が始まるのであれば、今度はどうしたら良いのだろうか。反省を込めて考えている」と切り出した。
振り返るのは、2014年10月から15年8月にかけて開かれた、性犯罪の罰則に関する検討会だ。角田弁護士は委員だったが、「改正の議論をするときに、一番最初にすべきは、性暴力犯罪の保護法益は何かという議論だった」と振り返る。
1907年(明治40年)の刑法制定時、強姦罪(177条)の保護法益は、当時の家父長制社会における男系の血統を守るための「貞操」とされていた。検討会の取りまとめ報告書では、「性的自由に限定されるものではなく、それを超えて、人間としての尊厳そのものに対する侵害であると考えるべき」といった意見がまとめられはしたが、議論の中心となることはなかった。
また、検討会では、暴行脅迫要件についても議論がなされたが、「私は暴行脅迫要件撤廃に反対する委員を論破できなかった」と、十分に反論できなかったことを悔やむ。
1949年の最高裁判例で、強姦罪(現強制性交等罪)の構成要件にある「暴行又は脅迫」は、「反抗を著しく困難ならしめる程度」という非常に強い程度が必要とされている。この要件は、今も見直されておらず、裁判でも「解釈の指針や事実認定が、男性のみの経験則に依拠している」と批判する。
今年3月に性犯罪の無罪判決が相次いだが、角田弁護士は「今回の無罪判決はこうした背景をもとにうまれたもの」とみている。
「裁判所の中に人権の風が吹いていない。保護法益をどうするかという根本の議論をしていないから、性暴力犯罪を支配する思想や哲学が見直されておらず、男性中心に続いて来たものが残っている」
無罪判決の報道後には、一部で裁判官個人を批判する声も見られた。しかし、角田弁護士は「裁判官個人批判よりも、現行の司法のシステム批判が必要だ」と訴える。
注目すべきは、なぜそのような裁判官など法曹関係者が生まれているのか、法学教育がどうなっているのかであり、「ジェンダー視点からの教育を増やすべき」と強調した。
●「女性たちが声をあげられるようになってきた」
一方で、今回の無罪判決をめぐる動きには、希望も感じた。一つは、市民感覚からの判決批判がたくさん起きたことだ。
「これまでは裁判所の判断を正面から批判していいんだろうかという遠慮があり、司法は専門家の問題だと思わされていた。性暴力被害の問題を専門にやっていなくても、女性の権利問題について考えている女性たちが声をあげられるようになってきた」
無罪判決の続報では、「暴行脅迫」や「抗拒不能」の要件についても言及された。「女性記者が増えたこともあり、報道側の注目点も変わって来た。おかしいということが、社会的に共有され始めたかなと思ってみている」
今回の無罪判決を受け、どのように行動すべきか。
角田弁護士は「法律家に任せず、判決文そのものを分析し、暴行脅迫要件を廃止した欧米の改正例を勉強する必要がある。そして世論を巻きおこすことが大事。これには男性も含まなければいけない」と呼びかけた。
Source : 国内 – Yahoo!ニュース