東京・新宿2丁目は、LGBTQなど性的少数者が多く集う街だ。繁華街にはゲイバーなどの多様な店がひしめく。しかし、新宿区には、都内で12区市まで広がった「パートナーシップ制度」がまだない。
長村さと子さん(38)は、この街で「足湯cafe&barどん浴」を経営する。セクシュアリティーや国籍などを気にせず、誰でも来られる場所にしたい――。店内のハンモックの虹色は、多様性を象徴するカラーだ。
長村さんは12月に出産の予定だ。精子提供による不妊治療を数年にわたって続け、4月に待望の妊娠が分かった。パートナーは同性の茂田まみこさん(40)。ちょうどその直前、性的少数者のカップルを公的に認める「パートナーシップ・ファミリーシップ制度」が4月に始まった足立区に、新宿区から転居したばかりだった。「パートナーシップ制度があるのとないのとでは全然違う」と長村さんは言う。
数カ月前、新宿で体調不良になり、救急車を呼んだ時のこと。茂田さんはパートナーだと説明したが、救急隊員とは話がかみ合わないままだった。「制度がない自治体では、いざという時、守ってもらえないかもしれない」。そんな「怖さ」を感じた。
「どん浴」の常連で長村さんの友人の河津レナさん(39)も、パートナーシップ制度を導入している中野区で、同性パートナーと暮らす。しかし、制度がない区外の病院でパートナーが手術を受ける際、河津さんは家族と認められず、同意書にサインをできなかった。家の購入でローンを2人で組もうとした時も、「前例がない」と大手金融機関に断られた。
10年前まで住んでいたオーストラリアと比べ、東京は生きづらいと感じる。「私たちって、いまだにキワモノ扱い。東京では常に、『自分は異端だ』と意識しないといけない」
小池百合子知事は、6月の都議会でパートナーシップ制度の導入検討を表明し、都議会も導入の請願を趣旨採択した。河津さんは「パフォーマンスだけで終わらせないでほしい」と、先を見つめる。
子どもがいる同性カップルでも使いやすく、パートナーが病気や亡くなった時も対応してくれる。生活に密着した施策の実現が当事者たちの願いだ。「住んでいて良かったと思える東京になってほしい」。河津さんは取材の最後、そうつぶやいた。(塩入彩)
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル