神戸・須磨海岸近くの住宅街に5月、小さな本屋がオープンした。港のように開かれた、自由を感じられる場所に。「自由港書店」と名付けた店主の旦(だん)悠輔さん(41)は、3年前まで東京で動画配信大手の取締役を務めていた。悩みながらたどり着いたこの場所で、本と人が出会い出港していくのを見守る。
JR須磨海浜公園駅から海へと続く、青く塗られた一本道。青緑のタイル壁のビル1階に、自由港書店はある。広さ5坪。客が7人も入れば混み合う小さな店だ。手作りの看板や床板、港の灯をイメージした照明がぬくもりを感じさせる。
棚には、絵本、詩集、小説、個人が作ったイラストブック。選ぶ基準は「自由を感じられる本」かどうか。世の価値観や枠組みにとらわれない考え方や生き方を示してくれると思った本を並べる。「人数は少なくても、切実に本を求めている人に届けていきたい」。思い浮かぶのは、かつての自分だ。
3年前まで、数千万人の視聴者にインターネット動画を届ける仕事の最前線にいた。
ITコンサルタント会社を経て、ネット動画の世界に飛びこんだのは2007年。ユーチューブの日本語版が始まるころで、まさに黎明(れいめい)期だった。新たな表現手段を得た無名の芸人やアニメーション作家たちが競い合う世界。「テレビでは生まれにくいコンテンツがあふれていて、ものすごいマグマを感じたんです」
アニメを担当し、作り手の発…
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Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
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