コロナ禍を機に、日本社会で若い世代が批判にさらされています。活動的な若者が無自覚のままウイルスを広げているとの疑念ですが、本当に悪いのは若者だけなのでしょうか。医師で作家の鎌田實さん(71)は「いま大切なのはバッシングではなく、若者に協力を求めることだ」と警鐘を鳴らしています。
1948年生まれ。東京都出身。30代で諏訪中央病院の院長となった。経営難の同病院を再生させ、地域医療に長年取り組んだ。地域包括ケア研究所所長。日本・イラク・メディカルネット代表。日本チェルノブイリ連帯基金理事長。「がんばらない」「1%の力」など著書多数。
バッシングは「ストレス解消」のため
――バッシングに遭っている若者たちを擁護していますね。
「いま、新型コロナウイルスの感染拡大につながる行動をしているのは若者だけではありません。新しい未知なるウイルスとの闘い方がわからず、誰でも間違えてしまうことはあります。若者のみに風当たりが強まる理由は、多くの人々が他者を非難することで、自らの恐れやストレスから逃れようとしているせいです」
――バッシングは、自らのストレス解消のためだと。
「非難する対象は、どうしても世代が違い、理解しにくい相手になりがちです。だから、年配者は若者がライブに行くことに憤り、若者は年配者がナイトクラブやバーに行くことに疑問を抱くのです」
――ライブは密閉、密集、密接という感染拡大の「3密」条件がそろっています。そこに行く若者が批判されるのは当然では?
「確かに密閉空間に人が集まり、大声を出すライブは、感染を拡大させやすい。政府や自治体がライブの関係者に協力を求めることは大切でしょう。でも、政治家や専門家は、頭ごなしに自粛への協力を強制しているように思えます。メディアの向こう側にいる若者に向けて、『君たちの協力が必要だ』と訴えている演説はほとんどありません。本当に、若者の悩みをきちんと受け止めるべく努力をしているのでしょうか」
――悩みを受け止める努力とは?
「先日、10万人が公園に集まるイベントをどうしても開催したい、という若者の相談を受けました。彼らの仲間はイベントがないと生活できない。他の医師と『客もミュージシャンもイベント後に2週間の自主隔離に入る』『動画サイトを使う』といった案を複数提案しましたが、最後は延期を決めました」
「若者たちは誠実で、悩んでいます。そのことを理解して一緒に考えれば、暴走はせず、逆に同世代の人をリードしてくれます。年配者では考えつかないようなウイルスとの闘い方、感染予防の方法を考える側になってくれるのです」
感染者に厳しい=感染症に弱い社会
――コロナ禍のいま、若者バッシングではなく、むしろ協力を求めるべきだと。
「悩む人の声を聞き、助ける方法の提示や補償をすれば、罰則がなくてもみんなが協力してくれます。これは、若者と年配者との関係に限りません。感染者が出た家庭と、そうでない家庭。感染拡大を招きやすい業種に就く者と、そうでない者。このままでは、そうした両者の間にひび割れができるのではと心配です」
――ウイルスへの恐怖心によって、人々の間で分断が広がると。
「みんなウイルスが怖いという気持ちはわかります。でも、ビヨンド・コロナ(コロナ終息後)の社会を見据えて、苦しい立場の人を支え助け合うことを意識しましょう。ここで苦労した若い世代は、工夫をしたり、発想転換したりして、将来をよき社会にしてくれるはずです。だから、今こそ子どもの教育や若者への支援に尽くすべきだと思います」
――コロナ終息後の社会を自分の頭で想像してみることが大切なんですね。
「そもそも感染した人に厳しい社会は、感染症に弱い社会です。感染したとわかった人には、『協力したい』という心境になってもらい、自主隔離を丁寧にやってもらう必要があるからです。また、感染して抗体ができた人にはコロナ禍の第2波、第3波が来たときに、医療を担ったり物資を運んだりする先遣隊になってもらわないといけない。抗体を持っていれば、感染の危険性が低下します。パワーを持った仲間がいると考えることができます」
まずは検査方針の転換必要
――感染した人に優しい社会にするにはどうすればよいのでしょうか?
「必要な人はPCR検査を受け…
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル