新型コロナウイルスワクチンの職域接種に、首都圏の大規模大学のなかでいち早く名乗りをあげた慶応大。すでに5万人近くに対して1回目の接種を行ったという。なぜ対応が早かったのか。接種の現場で見えた課題は。学生に向けて発したメッセージの背後にあった苦い出来事とは――。職域接種に関する学内の責任者で、今年5月まで慶応大病院長だった北川雄光・慶応義塾常任理事(60)に聞いた。
70代、80代の医師も続々と応援に
――大学での職域接種は6月21日から始まりましたが、この日に着手できたのは慶応大を含め全国で17大学、東京都内では3大学のみです。なぜ、この早さで始められたのでしょう。
医学、看護医療、薬学という医療関係の3学部があって、うち手が確保できたからです。信濃町(東京都新宿区信濃町の慶応義塾大学病院)で医療従事者4500人の接種を終えていたので、接種の進め方のノウハウはありました。
職域接種の対象者は、学生と院生3万3千人強に加えて、一貫校や非常勤を含む教職員、その家族、学内で働く業者の方、さらに学外の人にも対応するとして5万人と掲げました。
ただ、大学病院のスタッフはコロナ患者の診療もあり、日常業務で忙しい。医師免許を持っている学部の基礎研究者や教員に手伝いを依頼しましたが、1日2千人前後にうつことを想定していたので、とても手が足りない。そこで3学部の同窓会と関連病院のトップに連絡したら、全て「協力しましょう」と即答でした。「これならできる」と。
医師としては関連病院の方々に加え、元学部長、元病院長、70代、80代の大先輩も手伝ってくださいました。看護師はOBよりOGが多いですが、医師よりさらに多く来てくださり、本当にありがたかったですね。
接種の会場は、日吉キャンパス(横浜市港北区)がオリンピックの英国チームの事前キャンプ地になって「バブル」の中に入ってしまい、湘南藤沢キャンパス(神奈川県藤沢市)はやや遠いことから、三田キャンパス(東京都港区)にしました。近くに関連病院の東京都済生会中央病院があり、救急については「任せろ」と言ってくれました。
医療関係者だけでは対応できません。三田キャンパスの事務部門が、予約システムの構築や会場の設営、連日の運営に力を尽くしてくれました。
――接種開始前に、就任したばかりの伊藤公平塾長と北川理事が動画でメッセージを出しましたね。
伊藤塾長の就任は5月28日。職域接種に取り組む方針をすぐ決断し、「1年以上、制限を受けてきたキャンパスライフを奪還する」と学生に語りかける動画を6月9日に公開しました。
昨年の出来事「本当に情けなかった」
学生向けメッセージでは、「…
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
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