「呪われた家族だから、自分の血を絶やしたい」。演出家で俳優の渡辺義治(よしじ)さん(75)は、だから子どももつくらなかった。
幼いころ、父はたびたび夜中にうなされ、突然うめき声を上げて跳び起きた。
脂汗を流し、ランランと目を光らせた父は、恐怖に引きつった鬼の形相だった。
川の字になって、近くで寝ていた渡辺さんの心は凍りついた。恐れとおびえ、どうしようもない不安に襲われた。
渡辺さんの父、愛治さんは1910年、岐阜県の地主の次男として生まれた。
大学卒業後に役場に勤めたが、一旗揚げようと、34年に志願して旧満州国の軍人になった。
【連載】戦争トラウマ 連鎖する心の傷
悪夢、酒浸り、家族への暴力――。過酷な戦争体験からトラウマを抱え、後遺症に悩む旧日本兵たちの存在は置き去りにされてきました。ようやく語れるようになった子や孫の証言から、連鎖する心の傷の問題を考えます。
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル