小笠原諸島の海底火山「福徳岡ノ場」の噴火でできた大量の軽石が、高知沖の海上を漂流している。沖縄や鹿児島の港湾に押し寄せ、その後、太平洋側の黒潮の流れに乗って北上しているとみられる。高知県内でも、漁船の操業を早めたり、漁場を変えたりと影響が出始めている。
「このまま漁を続けたら危険だと思って、すぐに和歌山の港へ移動した」
久礼漁協(中土佐町)に所属するマグロはえ縄漁船「隆勝丸(りゅうしょうまる)」は、高知沖約320キロの海域で、漂流する軽石に遭遇した。
黒原隆盛船長によると、10月28日、一帯が暗くなり始めた午後6時ごろ海面が白く光るのが見えた。
「油が漏れたかと思ったが、においがしない。よく見ると軽石だった」
翌朝、魚をさばくための水が出にくくなった。さらに船室の蛇口から米粒大の軽石が出てきた。
漁船は海水を吸い込み、エンジンの冷却水としても利用する。軽石が吸水口に詰まると、エンジンがオーバーヒートして操業できなくなる可能性がある。
危険を感じた黒原さんは、予定より早く和歌山県の那智勝浦へ寄港した。「軽石があったのはビンチョウマグロの好漁場。残念だが、しばらくは危ないので近づけない」
久礼漁協の崎山義澄組合長は、秋の旬を迎え、太平洋を南下する戻りガツオ漁への影響も心配する。今年は春先からの豊漁でカツオの価格が暴落。新型コロナウイルスの感染拡大による飲食店の営業自粛も重なり漁師には苦難の年だった。「コロナが落ち着いて飲食店への需要が増える時期。戻りガツオのシーズンに新たな懸念が増えた」と嘆く。
県内の漁協からは、軽石に関する大きな被害の情報は入っていない。沖合で軽石の漂流が見つかった室戸でも、キンメダイやサンゴの漁場とは離れており、漁船に影響は出ていないという。県漁協室戸統括支所の谷岡大輔・同支所長代理は「軽石に注意して操業し、被害を受けた場合は速やかに報告してほしい」と呼びかけている。
軽石が海の生き物に与える影響はわかっていない。むろと廃校水族館(室戸市)によると、餌と形や大きさが似ているため養殖魚が誤飲する可能性が考えられ、ウミガメの誤飲もあり得るという。
第5管区海上保安本部(神戸市)によると、足摺岬の南約146キロ沖と、室戸岬の南約207キロ沖の2カ所で軽石が漂流しているのを巡回中の航空機が10月末に確認した。
室戸岬沖では、南北約110キロ、東西約70キロにわたって筋状に広がり、黒潮の流れに沿う形で東へ流れているという。海洋研究開発機構(本部・神奈川県横須賀市)の予想では今後しばらく、高知沖を漂うとみられている。
県は、水産庁が出した注意喚起の通知を海岸沿いの市町村に伝え、軽石への注意を呼びかけている。海上の漁業用施設への漂着を防ぐ効果が期待できるとして、各土木事務所や漁協などに確保しているオイルフェンスの数を確認したり、庁内で情報共有をしたりといった準備を進めている。11月9日時点で県内沿岸への漂着や漁業被害は確認されていないという。(羽賀和紀、清野貴幸、富田悦央)
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル