千葉県は2016年、房総半島東方沖で発生が予想される巨大地震の被害想定を発表した。震源はいすみ市沖約75キロで、地震の規模を示すマグニチュード(M)は8・2。この地震により、県内で最大約5600人の死者が出るとしている。
特徴は、県沿岸部への津波の到達時間の短さだ。
銚子市には県内で最も高い8・8メートルの津波が地震発生後32分で到達する。いすみ市や御宿町、勝浦市には、さらに早く、同約20分で7~8メートル級の津波が来る。
人的被害を少なくできるかどうかは、避難行動の迅速さにかかっている。
「早期避難率」(地震発生後、昼間は5分後、深夜は10分後に避難を開始した人の割合)が20%と低い場合、死者は約5600人、重軽傷者は約1150人となる。
早期避難率が70%で、津波が迫ってくる前に全員避難した場合は死者約1300人、重軽傷者は約170人。早期に全員避難した場合は死者約10人にまで減らせるという。
この地震は、日本海溝沿いで発生すると予想される。東日本大震災で「割れ残った」南側の領域だ。被害想定などの詳細は、千葉県のホームページ(HP)から「平成26・27年度千葉県地震被害想定調査報告書」と検索すると見られる。
1千年前に巨大津波あったか「リスクとして意識を」
房総半島東方沖を震源とする巨大地震と津波の記録は、東北地方の地震や津波などと比べ、ほとんど残っていない。
1677年の同沖震源の延宝地震では、現在の一宮町などを最大8メートルの津波が襲った記録があるが、これ以前がわかる古文書は今のところ把握されていないという。
こうした中、産業技術総合研究所(産総研)などの研究グループは昨年9月、これまで存在が知られていなかった地震と津波の痕跡を発見した、と発表した。約1千年前のM8級の巨大地震だ。澤井祐紀・産総研上級主任研究員(古地震学)は、「房総半島にも数百年に1回のペースで巨大津波が襲来していた可能性がある」とする。
研究グループは、匝瑳市と山武市、一宮町で掘削調査を行い、海で生息する有孔虫の化石が含まれている砂の層を発見。砂は当時の地表面を削りながら堆積(たいせき)していたことから、津波で陸上に運ばれたと判断した。また上下の地層に含まれていた植物化石の分析から、砂は西暦800~1300年に堆積したと推定した。
こうした調査結果をもとに、津波浸水シミュレーションを実施。複数のモデルの中で、房総半島東方沖の太平洋プレートとフィリピン海プレートの境界でM8・5以上の地震が発生した可能性があるとした。
産総研によると、津波の到達時間は40分前後。山武市では、現在の海岸線から約3キロの地点で浸水した痕跡があった。
澤井さんは、「太平洋プレートとフィリピン海プレートの境界で起こる地震については、これまで検討されてこなかった。発生周期はまだわからないが、新たな津波のリスクとして意識してほしい」と話す。
南房総市 最大25メートル超の津波のおそれ
千葉県沿岸には、「千年に一度、あるいはそれよりもっと発生頻度が低い」(県県土整備部)ものの、より大きな津波の想定もある。
県は18年、地域ごとに最大級の津波の想定を公表した。県HPで「『津波防災地域づくりに関する法律』に基づく津波浸水想定の設定について」と検索して詳細が見られる。
南房総市では、相模トラフ沿いでM8・7の地震による津波が発生した場合、最大25・2メートルの津波が8分で到達するとされた。同様の地震などでは、御宿町と鴨川市、館山市、勝浦市、いすみ市に15メートル以上の津波が8~19分で到達する想定もある。
同地震などでは、東京湾奥部や内房地域にも、大きな津波が来そうだ。鋸南町には9・1メートルの津波が3分で到達。浦安市、市川市に4メートルの津波が約167分で来るとの想定もある。
一方、国は昨年12月、日本海溝・千島海溝沿いで発生が予想される最大級の地震による被害想定を公表した。日本海溝では、震災で割れ残った北側の領域でM9・1の地震が発生すると想定。震源は東北沖から北海道日高沖だが、千葉県にも5メートル以上の津波が到達し、最大約200人の死者が出るとされた。(藤谷和広)
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
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