手放せない田畑、続ける「試験栽培」 でも…1人の食卓で揺れる思い

 ほとんど住民が戻らない夜の町に、消防車がサイレンを鳴らして通り過ぎた。

 昨年6月に避難指示が解除された福島県大熊町の自宅で、兼業農家だった高野一郎さん(73)が、1人で夕食の支度をしていた。

 妻が手作りして容器に詰めてくれたのは、肉じゃが、切り干し大根、春雨サラダ。それらを電子レンジで温めている間に、油揚げとネギを入れたみそ汁を作る。煮込みすぎてクタクタになってしまったネギを見て高野さんは、「本当は半生ぐらいが一番おいしい。昔は台所に男が立つなんて考えられなかったが、生きるためには仕方がない」とぼやいた。

 高野さんは、避難先のいわき市と大熊町の自宅を行き来する生活を送っている。庭の手入れや、家の中を片付けるためだ。1、2週間に1度のペースで訪れる。月に1度は自宅に泊まるが、その時はいつも1人だけ。妻はあまり町に戻りたくないと漏らす。近所の顔見知りは誰一人戻っておらず、寂しいのだという。近くにスーパーはなく、買い物は約10キロ離れた隣町まで車を走らせなければいけない。

「戻りたい」「戻りたくない」…夫婦で割れる思い

 夫は戻りたくても、妻が戻り…

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Source : 社会 – 朝日新聞デジタル

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