核兵器を全面的に禁じる核兵器禁止条約の批准が50カ国に迫っている。10月23日時点で49。50カ国の批准から90日後に発効され、早ければ来年初めにも実現する見通しとなった。核兵器保有国や日本を含む「核の傘」の下の国々は背を向けるが、核兵器を人道的に否定した条約を旗印に「核のない世界」を求める声は確実に広がっている。条約推進に貢献した「核兵器廃絶国際キャンペーン」(ICAN)の国際運営委員で、ピースボート共同代表の川崎哲さんに発効の意義と展望を聞いた。
――核兵器禁止条約の発効が視野に入った。
2017年7月7日の条約成立から3年かかって、ようやくここまで来た。条約が法的拘束力のある正式な国際法になる。「核兵器は非人道的であり、絶対的な悪」という新しい規範が生まれる。
対人地雷禁止条約やクラスター弾禁止条約を例に挙げると、発効後、非締約国でも製造への投資が引き揚げられたり、輸出入が停止されたりする動きがあった。「非人道的だ」という規範の強まりによって、条約は非締約国にも影響を及ぼした。
――発効後の課題は?
条約は、核兵器廃棄の期限や後戻りしないための措置、検証方法などを、批准した国々による締約国会議で決めるとしている。第1回会議は発効から1年以内に開かれることになっている。会議の準備がこれから加速する。
――核兵器保有国とは、これからどう向き合っていくのか?
核保有国は「核禁条約は意味がない」「核不拡散条約(NPT)を阻害する」などと主張をしている。
だが、核軍備競争をやめ、核軍縮について効果的な措置を取るという、NPT第6条に定められた義務を核保有国が負っていることには全く変わりはない。「核禁条約を批判するのであれば、核軍縮のために何をしますか」と問いただしていくべきだ。
核保有国は「この条約はダメだ」と外野で批判していないで、むしろ締約国会議にオブザーバーや専門家を派遣し、議論に参加してもらいたい。
――日本政府は核保有国と非保有国の「橋渡し役」を目指しているというが、核兵器禁止条約には否定的だ。
「橋渡し」とは、さまざまな議論や立場の違いがある時、それぞれの話を聴いて、落としどころや共通基盤を見いだす努力をすることではないか。締約国会議のような場に出て、そこに集まっている国々の言うことを理解した上で、日本の立場を説明し、条約に反対する国々や人々に「彼らはこう言っている」「日本はこう思う」と伝えてほしい。
ところが、日本政府は核兵器禁止条約の交渉会議にも参加しなかった。国連に毎年提出してきた核廃絶決議を今年も出したが、核兵器禁止条約には触れてもいない。これまでの日本政府の行動を見ると、「橋渡し」というより、核保有国と同じ側に立っているとしか見えない。
――日本も批准はしていなくても締約国会議にオブザーバーで参加すべきだ、という意見がある。
参加しなければ、核兵器廃棄の検証方法などが日本抜きで決まっていく。
何ごともそうだが、新しい何かが生まれる時、そこにいなければプレーヤーにはなれない。例えば、同じように「核の傘」の下にいるオランダは、国連の条約交渉会議に参加し、主張した上で、採択で反対した。日本がどんな立場を取ろうとも、核軍縮や核不拡散に関して国際社会で主たるプレーヤーでありたいなら、その場に行かなければはじまらない。
日本が参加すれば、歓迎されるだろう。「核の傘」の下にある国々の中でも、日本は被爆国であり、「核兵器廃絶への思いがあるはずだ」と各国から見られている。逆に、参加しなければ「この問題に関心がない」と受けとめられる。
――条約推進に被爆者たちが果たした役割は?
条約の制定プロセスは、人道的な観点に立ち、核の被害を繰り返してはならないというところから出発した。
17年3月に始まった条約交渉会議では、冒頭で被爆者を代表して日本原水爆被害者団体協議会(日本被団協)事務局次長の藤森俊希さんが体験を語り、条約推進を訴えた。その後のプロセスでも被爆者や核実験の被害者はずっと中心にいた。
だからこそ、条約前文には「被爆者」という言葉が2度使われている。1度目は「受け入れがたい苦痛と被害」を心に留める。2度目は国連などの国際・地域機構やNGO、宗教指導者、国会議員などとともに、核廃絶に果たす役割を強調している。
被爆者のみなさんはご高齢で大変ですが、もうひと仕事、ふた仕事、この新しい条約と一緒に仕事をしていただきたい。
――「核の傘」国が条約に参加する見通しは?
9月と10月に注目すべき動きがあった。一つは9月下旬、「核の傘」国である北大西洋条約機構(NATO)20カ国と日本、韓国の計22カ国の元首脳ら56人が核兵器禁止条約を支持し、それにすべての国が、なかんずく自分の国が加入すべきだという公開書簡を発表した。
注目すべきは2人の元NATO…
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Source : 社会 – 朝日新聞デジタル