河川からあふれ出した水が、町を、人を、のみ込んだ。台風19号の大雨では、大規模な河川だけでなく、中小河川も各地で氾濫(はんらん)した。自然災害の脅威が高まるなか、どう教訓をつなぎ、命を守るかが改めて問われている。
台風19号が近づく前の10月12日正午過ぎから、雨脚は強まり始めていた。
宮城県の南端に位置し、山々に囲まれた丸森町。その中心部近くの竹谷地区に住む西坂秀夫さん(66)は、自宅の外から避難を呼びかける声を耳にした。町を貫く阿武隈川までは、1キロ以上離れている。「風は弱いし、大丈夫だろう」。辺りはすでに暗く、テレビを見て横になった。
「ガタン」。午後9時ごろ、そばの扇風機が倒れる音で目が覚めると、水が畳の上にあふれていた。水は床下からみるみる湧いてきた。慌てて玄関を開けると、外は濁流が流れていた。自宅は平屋建て。逃げ場を失い、床が30センチ高いトイレに駆け込んで、梁(はり)に両手でしがみついた。
この間、わずか10分。水はあごの下まで迫った。水の中でつま先立ちになり、窓から濁流を見ながら、「もう生きていられないな」と覚悟した。
「あー、あー」と大声を出して…
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Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
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