残業代を出さない代わりに基本給の4%を一律に上乗せ支給する。そんな公立学校教員特有の給与制度の見直し論議が、文部科学相の諮問機関、中央教育審議会の特別部会で近く始まる。教員の給与制度は「教員給与特措法(給特法)」で定められており、教員の一部には廃止を求める声もある。今後の議論で給特法の枠組みはどうなるのか。特別部会委員を務める青木栄一・東北大教授(教育行政学)に考えを聞いた。
――いくら働いても残業代が支給されない給特法に対しては、「定額働かせ放題」の制度だとして廃止を求める声が一部にあります。
給特法廃止の主張の背景には、残業代が出るようにすることで、使用者側がその支払いをなるべく減らそうとして残業を減らさざるを得なくなるという期待があると推察します。
文科省の2022年度の勤務実態調査(速報値)では中学校教諭の平日の労働時間は11時間1分、小学校教諭も10時間45分と依然として長過ぎます。労働時間の抑制は急務で、期待する思いはわかります。
問題は、廃止が本当に残業の削減につながるかということです。現行制度のもとで過度の長時間労働が起きているのは、校長や副校長といった管理職が教員の労働時間のマネジメントを十分にできていないことも要因です。給特法の廃止で急にそれができるようになるのか、疑問です。残業した分だけ財源が確保できるのか、という心配もあります。
給与支出する都道府県 「自分の財布」は痛まない
――残業代を支払う行政側が予算内に収めようとして教員の仕事を減らすという期待もあるようです。
小中学校の多くを占める市町村立学校について言えば、教員の業務負担を管理する施策は基本的には市町村教育委員会が担います。一方で仮に残業代を支給するとしても教員給与の予算は都道府県が支出しています。市町村にとって残業代の節約は仕事を減らすためのインセンティブ(動機)になりにくい仕組みであるという前提があります。
さらにいえば教員給与には国のお金が入るので、都道府県にとっても残業代の支払い増で「自分たちの財布」だけが痛むわけではないことにも注意が必要です。
――給特法改正は、長時間労働を改善することに直接的につながらないということでしょうか。
給与制度と勤務時間管理は密接な関係にあるものの、どちらかがどちらかの手段になるかというと、それは違うと思います。働き方改革と、給与制度を含めた処遇改善の両方をパッケージで進めて、双方の実現性を高める必要があるでしょう。
記事後半では、教員の長時間労働を抑制するための実効的な仕組みや、態勢づくりの具体策などについて語っていただいています。
長時間労働の改善策 「外部チェック」の仕組みとは
ここから続き
――給特法の改正によらずに…
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル