教員の残業「時間外労働にあたらず」原告の請求退ける さいたま地裁

 教員の時間外労働に残業代が支払われないのは違法だとして、埼玉県の公立小学校教員の男性(62)が県に未払いの賃金約240万円を求めた訴訟の判決が1日、さいたま地裁であった。教員の残業が労働基準法上の時間外労働にあたるかが争われた初めての裁判だったが、石垣陽介裁判長は残業は労基法上の時間外労働にあたらないとして、原告の請求を退けた。

 労基法では、使用者は「1日8時間、週40時間」(法定労働時間)を超えて労働させてはならない。時間外労働をさせる場合には、労使間で時間外労働に関する協定を結んだうえで割増賃金を支払うことを義務づけている。

 ただ、公立学校の教員には1971年制定の教職員給与特措法(給特法)があり、残業代を支払わない代わりに月給4%分の「教職調整額」を一律で支給している。一方で長時間労働を防ぐため、職員会議、修学旅行などの学校行事、校外実習、非常災害時の4業務(超勤4項目)を除いて、原則時間外労働をさせてはいけないとした。その結果、逆に4項目以外は「自発的な活動」だとみなされて、時間外労働として認められてこなかった。

 この制度の下では労働時間の管理が甘くなりやすいため過大な業務の見直しが進まず、「長時間労働の温床」とも指摘されてきた。

 原告の男性は2018年9月に提訴した。19年に定年退職したが、その後も再任用埼玉県内の別の小学校に勤めている。

 原告側は、17年9月~18年7月の勤務時間外に行った登校時の児童の見守りやテストの採点、草取りなどは「超勤4項目に該当しない通常業務」で労基法上の時間外労働にあたり、労使協定を結ばなかったのは違法だと主張。時間外労働が認められれば、この間の未払い賃金約240万円の支払いを求めるとしていた。

 また、未払い賃金の支払いが認められない場合でも、「違法な長時間労働を強いられたことによる精神的苦痛を看過してはならない」として、残業代相当額の損害賠償を支払うよう求めていた。

 これに対し県側は「校長から給特法に違反する時間外勤務の命令はなく、原告の業務は自発的なものだ」とし、時間外勤務には該当しないと主張していた。(森下友貴)

残業代訴訟と給特法を巡る経緯

1960年代後半 教員の超過勤務を巡る訴訟が相次ぐ

   71年 給特法制定。公立教員の給料の4%を「教職調整額」として上乗せする代わり、残業代を出さない制度に

2002年 学校週5日制が完全導入

   08年 学習指導要領改訂。「脱ゆとり路線」で小中の授業時間が約40年ぶりに増

   14年 国際調査で日本の中学校教員の勤務時間が参加国最長との結果が判明

   18年 埼玉県の公立小教員が未払い賃金の支払いを求めてさいたま地裁に提訴

   19年 改正給特法が成立。文科省が残業の上限を定める指針をつくる義務を盛り込む。夏休みをまとめどりしやすくする1年単位の変形労働時間制も可能に

   21年3月 教職の魅力を広めようと文科省が始めた「#教師のバトン」で、SNSに長時間労働の改善を訴える声が相次ぐ

     10月 さいたま地裁判決

Source : 社会 – 朝日新聞デジタル

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