四面体をリング状につなげてクルクルと回すことができる折り紙「カライドサイクル」。遊んだ人もいるかもしれないが、この折り紙、つなげる四面体の数を増やすと回しにくくなる。いくつ増やしても回せる幾何学図形は存在するか。数学者が挑戦した。
2016年・沖縄。九州大マス・フォア・インダストリ研究所教授の鍛冶(かじ)静雄さん(43)は、研究集会で仲良くなったドイツの数学者に、あの話を振ってみた。「このおもちゃを数学の問題として扱えるだろうか」
八つ以上でもずっと回せる?
カライドサイクルは、同じ形をした図形が数珠つなぎに連なったもので、クルクルと回すことができる。だが、つなげる図形の数を八つ以上に増やすと、たわんで回しにくくなる。
以前、学生の卒業研究として、この不思議な折り紙を調べる課題を与えたが、自分の方がハマった。
八つ以上でもずっと回せる図形は存在するだろうか。家で折り紙を手に考えていたら「また遊んでいるの?」と妻から言われた。頭から離れなかった。
鍛冶さんの専門は、モノの形に潜む性質を調べるトポロジー(位相幾何学)。
ドーナツとコーヒーカップを「同じもの」とするのがトポロジーの面白いところ。なぜなら、穴が一つだけなので、連続的に変形させることができるからだ。厳密さにこだわらず、柔軟にアプローチする手法だ。
そんな抽象的な概念で、このおもちゃを捉えられないか。話しかけた数学者と「面白そう」と意気投合。さらに別の数学者も入り、共同研究が始まった。
「元々はお遊び。数学者が本気でやる仕事ではないかもしれません。でもここまで発展するとは思ってもいませんでした」
オイラーもサーストンもハマった
実は、カライドサイクルが見せるようなモノの「動き方」は、社会と密接につながっている。
18世紀、ジェームズ・ワットは、いくつかの剛体をジョイントでつないだ機械を思いついた。蒸気の力で生じる直線的なピストン運動を、回転運動に変換する蒸気機関を開発。機関車や蒸気船がつくられ、産業革命が花開いた。
これらの機械は「リンク機構」と呼ばれ、車のワイパーや電車のパンタグラフ、折り畳み傘などの構造、蒸気機関などの動力を伝えるものとして応用される。「てこ」もその一つだ。
ただ、新たに設計したり、動きを数学的に解析したりするのは至難の業。近代数学の礎を築いたレオンハルト・オイラーや、天才数学者ウィリアム・サーストンなど、名だたる数学者も挑戦した。
そんな難問に鍛冶さんも挑んだ。
まず、カライドサイクルの形状を、複雑な二次方程式に置き換えて連立させた。
答えを一つ一つ直接解くのは難しい。そこで、答え全体がつくる図形を考え、それをトポロジーの力を借りて調べていった。
木を見ず森を見て、答えに近づく方法だ。
代数、幾何、解析をつなぐ交差点
計算により、特別な形の図形が出てきた。8個つなげるとクルクルと回せる。
普通、つなぐ図形の数を増やせば、色んな動きをしてたわむが、10個でも20個でもなめらかに回った。
厳密に計算された図形のなせるわざだった。
驚いたのは、豊潤な数学が現…
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
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