新型コロナ 新たな戦略で「死なない病気」に

 新型コロナウイルスの治療薬とてし、さまざまな薬が候補にあがっており、抗ウイルス薬「レムデシビル」は月内にも承認されそうだ。難治性血液疾患などを専門とする小島勢二・名古屋大名誉教授は、新型コロナと立ち向かうには、抗ウイルス薬や、免疫を抑える薬とともに、第三の薬として「毛細血管に働きかける薬」が有効かもしれないという。新型コロナでは一部の患者が重症化することが指摘されているが、この薬は重症化の防止につながる可能性があるという。どういうメカニズムなのか。小島さんが解説した。

人工呼吸器つけても65歳以上 97%死亡

 緊急事態宣言が出されてからもうすぐ1カ月。いまだに、新型コロナウイルス感染が収束するめどはたっていない。そのため政府は、緊急事態宣言を1カ月程度延長する方針だ。

 これまでの新型コロナウイルス感染拡大への対策は、人との接触を極力削減して感染機会を減らすことに主眼が置かれてきた。さらに、重篤な症例は集中治療室(ICU)で管理して、人工呼吸器や体外式膜型人工肺(ECMO)による救命治療が行われてきた。医療スタッフや医療機器の不足から、一部の地域においては医療崩壊が現実のものとなっている。

 米国医師会雑誌によると、ニューヨークで治療された5700人の新型コロナウイルス感染患者のうち、320人が人工呼吸管理を必要としたが、その死亡率は18歳~65歳では76・4%、65歳以上では、実に97・2%に達している。

 一方で人工呼吸管理を必要としなかった患者の死亡率は、18~65歳では19・8%、65歳以上では26・6%であった。

 ICUで呼吸管理をしても65歳以上では97%が救命できていないという事実を考えると、医療資源やマンパワーの多くを重篤なICU管理の患者に注ぐことには、考え直す余地がある。

 では、どうするべきか。

重篤な患者を減らすには

 医療者は、極力、呼吸管理を必要とする重篤な状態になる患者を減らすことに力を注ぐべきである。感染機会を減らすための休業措置やICUでの重篤患者の管理と比較して、医療や社会に与える負担はずっと少なくてすむ。

 新型コロナ肺炎の経過は、通常の肺炎と大きく異なる。せきや発熱などの風邪症状を訴えていた患者が、急に呼吸困難に陥る。多くの患者は、その息苦しさを、「まるで水におぼれたようだ」と表現している。

 実際、肺に何が起きているのだろう。

 肺は非常に目の細かいスポンジ状の組織で気管支の末端には「肺胞」という空気がたまる小さな袋がある。肺胞の壁は「間質」と呼ばれ、周りには毛細血管が網の目のようにはりめぐらされ、酸素をとりこみ二酸化炭素を取り出すガス交換をしている。

 中国の武漢の病院が発表した新型コロナによる肺炎患者の顕微鏡写真によると、肺胞の壁が厚くなり、肺胞内には水がたまっていた。肺炎で死亡した直後の顕微鏡写真には、液体が肺胞にたまる「肺浮腫」がうつっていた。重度の呼吸不全の急性呼吸窮迫症候群(ARDS)の所見である。

 こうした顕微鏡画像から想像するに、新型コロナ肺炎が急激に悪化するのは、肺の間質に集まった血液細胞から、免疫にかかわる「サイトカイン」と呼ばれるたんぱく質が過剰につくられ、免疫が暴走するためだと考えられる。この点については、多くの研究者の意見は一致している。

 新型コロナ肺炎においては、間質に集まった血液細胞から出たサイトカインによって血管の細胞が傷つき、毛細血管漏出が起こることにより肺胞内に水分が漏れ出てしまう。その結果、肺胞と毛細血管とのガス交換ができなくなっていると考えられる。急激な呼吸困難の発症や、高齢者に多くみられることも、こう考えれば説明がつく。

 つまり、新型コロナウイルス肺炎の治療は①ウイルス感染②免疫の抑制③毛細血管漏出――の三つがターゲットとなる。

 抗ウイルス薬については、さま…


Source : 社会 – 朝日新聞デジタル

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