歴史学者で国際日本文化研究センター准教授の磯田道史さんは、約100年前に歌人の与謝野晶子が書いた文章に、今回の新型コロナウイルス対策の教訓が隠れていると言います。私たちは歴史から、何を学べるのでしょう。
拡大する歴史学者の磯田道史さん=岡崎明子撮影
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感染症を封じ込めるためには、国民も隔離閉鎖である程度、自由の制限を受け入れざるを得ないというのが、歴史の教訓だと思っています。法律は人間の脳の中で理想の世界をつくりますが、自然はそんなことを考えてくれません。
全国一律に学校を休校するという政策を、国民が批判するのは当然です。感染地域ごとに細かく対応できればよかったのでしょうが、それでは時間がかかります。まずは大方針を広げ、その後、少しずつ変えていくべきです。歴史を鑑みるに、基本線において学校を閉じるということが間違った判断だとは思いません。ウイルスに対しては、情報がない中で闘わないといけないのです。その際に、歴史は大きな示唆を与えてくれます。
拡大する奈良市の市立都跡小学校の3年生の教室では、教員が見守るなか、児童7人が自習していた=2020年3月2日午後、加治隼人撮影
今から約100年前の大正7~8年に流行したスペイン・インフルエンザ(スペインかぜ)の研究をした私の師匠・速水融先生(歴史人口学者、2019年死去)によると、このウイルスにより、当時の日本の人口5500万人のうち、1%近くが亡くなったそうです。1回パンデミックになると、思ったより長く暴れるというのが、一つの教訓です。
加えて、国民の「移動」と「密集」が、確実に死者を増やしたこともわかっています。移動の自由の制限は一時我慢すればいい話です。生き続けて自由を手に入れるためには、限られた期間に自由の制限を受け入れることも必要だというのが、僕の意見です。それは、既存の法制度の枠組みの中で考えていてはいけない話だと思います。
当時のことを、与謝野晶子が「感冒の床から」という文章に記しています。子どもが小学校から伝染して、家内全体に伝染したと。東京や大阪で急性肺炎により亡くなった人が増えていることが、新聞からうかがえると。そして文芸評論家の島村抱月さんが亡くなったのも、この風邪が与えた損害の大きな一つだと。
実は当時も、流行の初期におい…
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Source : 社会 – 朝日新聞デジタル