新型コロナウイルスの感染者が、再び増えてきた。「新規感染者数」「倍加時間」「実効再生産数」……。感染状況を分析する指標にはいろいろあるが、意味や定義が分かりにくかったり、計算が複雑だったりする。それぞれの数字を、どう理解すればいいのだろうか。
毎日のニュースでも流れる身近な指標は「新規感染者数」だ。だが、この数字だけを見ても、流行の勢いや規模はわかりにくい。
感染状況を分析するには、「感染者数」と「流行の勢い」「対策の難しさ」の三つの要素が必要だ。だが、三つの要素を同時に備えた指標はないため、さまざまな指標を組み合わせて見ることになる。
たとえば5月に緊急事態宣言を解除する際、政府は再指定の目安となる基準として、直近1週間の①累計新規感染者数②感染者が2倍になる倍加時間③感染経路不明者の割合――の三つを中心に総合的に判断するとした。
西浦氏「いつしか倍加時間に…」
流行の勢いをみる倍加時間は、感染者数が倍になるのにかかる時間を指す。感染者数が100人から200人になるのに3日かかるなら倍加時間は「3日」で、短いほど勢いがある。
だが専門家によると、倍加時間は感染症学での基本的な指標ではないという。厚生労働省クラスター対策班の北海道大学の西浦博教授は「我々は最初、再生産数で議論していたが、いつしか倍加時間に取って代わられた」と明かす。
感染症学では、増減の割合を「再生産数」という。いろいろな計算方法があり、複雑になりがちだが、「今日の感染者を前日の感染者で割った値が、再生産数だと考えてよい」と、中山正敏・九州大名誉教授は解説する。
たとえば前日の感染者数が10人で、今日は11人に増えたなら、11を10で割って1・1。つまり1人の感染者がうみだす感染者数が再生産数で、1より小さければ感染は収束する。
「銀行の複利計算と同じです」と中山さん。再生産数が1・1なら、毎日の利子は10%。2日後の感染者数は1・1×1・1=1・21倍、10日後ならこのかけ算が10回繰り返されて、2・6倍になる。銀行の複利のように、雪だるま式に感染者が増えていく。
実効再生産数、疑問視する声も
再生産数には、基本再生産数と実効再生産数の2種類がある。基本再生産数は、感染が広がりだす最初期のウイルスが本来持つ感染力の指標だ。実際はさまざまな対策や人々の行動変容によって再生産数は低下し、この値が実効再生産数と呼ばれる。
ただし専門家が使う実効再生産数は、もっと複雑な計算で導き出している。「感染中の人」「まだ感染していない人」「感染から回復した人」という三つの数字が互いにどんな関係にあるかを方程式に表し、これを解くことで得られる。政府の専門家会議が発表してきた実効再生産数も、このような計算に基づいている。
ただ、新型コロナに感染した人が診断され、報告されるまでには平均2週間かかるとされる。そのため、今日の実効再生産数が確認できるのは2週間後になってしまうという欠点がある。また、倍加時間や実効再生産数の計算方法や使用したデータを報告書などで公表しなかったため第三者が検証できず、数値を疑問視する声もある。
たとえば緊急事態宣言解除の期限が近づいた5月1日の専門家会議は、この時期の東京の倍加時間を3・8日と報告した。4月1日の時点に比べるとゆるやかだが依然短く、勢いがある数字と言える。一方で、実効再生産数はその2週間前に0・3程度まで下がっていると示され、宣言の解除が検討された。
神戸大の牧野淳一郎教授は岩波書店の科学誌「科学」の連載で実効再生産数について、専門家会議の見解は数値を過小評価していると批判。3月19日に専門家会議が「新型コロナウイルス感染症対策の状況分析・提言」として出した資料についても「専門家会議はまったく意味がないデータをもってきて、3月上旬以降をみると、連続して1を下回り続けていますという見解をだしたことになる」と批判した。
三つ目の指標である「感染経路不明者の割合」は、日本が取ってきた独自の対策とも結びついている。感染拡大の初期は、クラスター(感染者集団)を特定することで次の感染を防いだ。だが経路不明者の多さは市中感染が広がっていることを示しており、今後、感染者急増の可能性がある。
1日の感染者数が100人を超える日が続く東京都の場合、6日の時点で①は10万人中5・0人、②は2・1日、③は39%だった。(伊藤隆太郎)
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神戸大の牧野淳一郎教授に関する部分について、雑誌名とコメント部分を加筆修正しました(7月10日)。
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
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