新型コロナウイルスというグローバルな感染症が脅かすのは、私たち一人一人の身体だけではない。政治学には古くから、一つの政府の下に統合された国民と国家を人体に例える概念がある。body politic、「政体」という考え方だ。グローバルな感染症はこの政体をも脅かす。日本も例外ではない。 (上智大学国際教養学部教授=中野晃一)
新型コロナウイルスの脅威に直面した日本の政体、とりわけ人体に例えると頭部に当たるであろう安倍政権に、これまで表れた“症状”を整理すると、第一段階は「水際作戦の幻覚」が見られ、第二段階では「国内外から批判を受けたことによる“発熱”」と「感染対策のコストとリスクを他者に押しつける外部化衝動」が観察される。このように病に侵されている日本の政体は、私権制限を伴う緊急事態宣言を可能とする特措法成立がとどめとなって、いよいよ死に至るかのようである。
▽軽視された国内感染
第一段階では、安倍晋三首相はじめ政権の政治家たちは、新型コロナウイルスがグローバルな感染症である認識を欠き、国内感染の拡大の危険性に十分な注意を払わず、その準備を怠っていた。結果として、出入国在留管理庁や厚生労働省などの官庁が、中国・武漢市からの帰国者や、クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」に対するちぐはぐで穴だらけの「水際作戦」をそれぞれ行うのみだった。
1月28日に国内感染が初めて確認され、30日に安倍首相を本部長とし全閣僚で構成する新型コロナウイルス感染症対策本部が設置された。2月13日に国内初の死者が出たにもかかわらず、加藤勝信厚生労働相は「国内での流行は認められない」と述べるのみで、安倍首相は十数分、対策本部に顔を出すだけで連日会食を繰り返した。小泉進次郎環境相、森雅子法相、萩生田光一文部科学相は政務で対策本部を欠席するなどしていた。
当然のことながら水際作戦の限界が明らかになり、対策本部に専門家会議がようやく設置されたのは2月16日、医療機関の「受診の目安」を国民に向けて公表したのは17日、そして対策本部が「基本方針」を決定したのは25日だ。この問題で首相が初めて記者会見を開いたのは、初の国内感染確認から1カ月がたった2月29日である。
▽機能不全を招いた元凶
これまでもあったように、2014年山梨などの豪雪被害、2018年西日本豪雨被害、そして昨年の台風15号や19号被害など、首相はじめ政権与党が国民生活に大きな被害をもたらす災害対応に興味を示さないのは、政権中枢が世襲政治家とその取り巻きのような政治家や官僚によって占められていることと無関係ではないだろう。安倍政権でより顕著となったトップダウンの政体だからこそ、リーダーシップの欠如は国家の機能不全を悪化させ、官僚組織は場当たり的で事なかれ主義的な対応を行ってしまったものと考えられる。
【関連記事】
Source : 国内 – Yahoo!ニュース