これまで知られていなかった小型のサンショウウオが近年、日本各地で相次いで見つかっている。DNA解析の進歩もあり、その数は過去10年で倍近い約50種になった。自然が豊かな北陸は、サンショウウオが好む地形や気候がそろった生息域の一つになっている。
岐阜県境に近い福井県南越前町の標高約570メートル。枯れたススキが揺れる山道を昨年11月、福井県両生爬虫(はちゅう)類研究会副会長の川内一憲さん(74)=あわら市=らと車で上った。沢の近くで車を止め、湿った落ち葉や腐葉土の隙間をのぞいた。「いたよ!」。クリッと飛び出た黒い目玉に、炎のような赤い背中の模様。「間違いない。ホムラだ」と川内さんが声を弾ませた。体長約10センチの個体はクネクネと身をよじらせ、落ち葉の奥に潜っていった。
「ホムラ」とは国立科学博物館の吉川夏彦研究員らが昨年2月に論文発表したホムラハコネサンショウウオのことだ。日本固有のハコネサンショウウオ属の新種で、石川や京都など本州中部の涼しい山地に生息する。普段は森にいるが、繁殖期は水場に出る。名前の由来となった炎(ほむら)の模様のほか、細身なのも特徴だ。
新種発表の基礎となっているのは、実は川内さんのような在野の研究家の調査だ。川内さんは機械製造会社員だった1993年夏、子供の理科研究のため、あわら市の山を歩いた。そこで川をのぞいた息子が「魚に足がある!」と言って見つけたのが最初のサンショウウオだった。
その後観察にのめり込み、希少なアベサンショウウオが福井や石川にいることを仲間との調査で初めて確認。学会にも出て京都大の専門家らと交流するようになった。2006年ごろからは南越前町や坂井市、おおい町を歩き回り、珍しい模様の個体を吉川研究員に提供。それが冒頭の「ホムラ」だった。
「ホムラ」の発表で小型サンショウウオは計46種になったが、大半は絶滅しかけている。ゴルフ場や林道の開発で生息地が狭まっているうえ、外来種のザリガニやウシガエルに卵を食われたり、愛好家に捕獲・密売されたりしている。
生き物が年々減ることを危惧する川内さんは、17年から地元小学校の野外授業で里山の生態系を紹介。「どれほど貴重な生き物がいるか、まずは発見し、知ることが保護の第一歩になる」と語る。今年も約100カ所ある調査地点を見回り、34冊目の観察ノートに記録を刻むつもりだ。(乗京真知)
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
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