新聞に欠けていたものは ジャニーズ問題で批判を受けて考えたこと

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論説委員・田玉恵美

記者コラム「多事奏論」論説委員・田玉恵美

 新聞はなぜ報じてこなかったのか。ジャニーズ事務所の創業者ジャニー喜多川氏による性暴力疑惑に注目が集まるなか、厳しい批判の声が耳に届く。

 そう言われるのも当然だろう。疑惑の報道は長きにわたってあった。だが、朝日新聞が本格的に報じたのは、被害を訴える男性が顔を出して実名で記者会見をした今年の4月になってからだ。なぜ見過ごしてきたのか。自分なりに考えてみたい。

 調べると、この問題を伝える報道は、週刊誌などで1960年代から散発的に続いていた。大きな転機は、99年から2000年にかけて「週刊文春」が手がけたキャンペーン報道だろう。喜多川氏による少年たちへの性暴力を「ホモ・セクハラ」と名づけ、匿名の証言などを14回にわたって伝えたものだ。

 ジャニーズ事務所と喜多川氏は名誉毀損(きそん)にあたるとして裁判に訴えた。東京地裁は02年、文春に880万円の賠償命令を出したが、03年の東京高裁判決はセクハラに関する記事の重要部分を真実と認め、賠償額を120万円に減額。04年に最高裁が上告を棄却し、確定した。

 朝日新聞は一連の判決をすべて報じている。ただ、今になって記事を見返すと、扱いが小さすぎるように感じる。一審判決は夕刊の社会面で3段見出しだったが、あとの二つは朝刊社会面のベタ記事だ。記者の署名がついていないため、今となっては誰が記事を書いたのかもよくわからない。事情を知っていそうな同僚たちやOB・OGらにできる限り聞いたが、そもそも文春の記事の内容や裁判の詳細について当時の状況を覚えている人がいなかった。

 ただ、小さな記事になった理…

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Source : 社会 – 朝日新聞デジタル

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