和歌山県美浜町のNPO法人が地元の新聞販売店と連携し、引きこもりの若者の社会復帰支援に取り組んでいる。10年以上引きこもっていた30代男性はさまざまな人々との交流を機に、昨夏から新聞販売店で働き始めた。成果は周辺自治体に注目され今春、6自治体が引きこもり者支援事業を委託する予定で、NPOはさらなる支援拡充を目指している。(小笠原僚也)
美浜町の隣、御坊市にある産経新聞御坊販売所にアルバイトとして勤務する釜中隆行さん(32)。週6日、地元紙の折り込みや自転車での新聞配達をこなしている。
年上の先輩が多いが、気さくに会話し、てきぱきと仕事をする釜中さん。だが、実は高校時代から10年以上自室に引きこもり、ゲームに明け暮れる日々を送った。「周囲はみんな“敵”だと感じていた」と当時を振り返る。
心配した母親が人づてに見つけたのが、引きこもりを長年研究してきた精神科医で和歌山大学名誉教授の宮西照夫氏(71)が平成27年に設立し、理事長を務める支援団体のNPO法人「ヴィダ・リブレ」(同県美浜町)。スタッフも多くは引きこもり経験者で、現在は医師や臨床心理士などとして活躍している。「プチ家出の家」の看板を掲げて毎週土曜、引きこもりの若者たちの交流の場「Amigo(アミーゴ)の会」を開催していた。
釜中さんが母親に会への参加を勧められたのは一昨年夏。それまで何も言わなかった母親から「私が死んだら、あんた独りになるよ」と言われて初めて、「真剣に心配されているんだ」と気づいたという。
昨年3月末、初めて会に参加。長年インターネットでは人とつながっていたが、家の外で実際に他人と話すのは久しぶりだったため、「最初はすごく緊張して疲れた」が、「新鮮で、刺激的でもあった」と振り返る。そこで知り合ったのが現在の勤務先、産経新聞御坊販売所の大前章浩所長(34)だった。
何度か参加するうち、人手不足に困っていた大前さんから「うちで働かへん?」と声をかけられた。交流が深まるにつれ、「この人の頼みを断るわけにはいかない」と、思い切って働くことを決めた。NPOにとっても、支援対象者を就労につなぐことに結びついた初めての例となった。
「引きこもりは家庭内での解決が難しく、第三者と気楽に話せる場所はとても効果的」と宮西理事長。人手不足に悩む販売所側も釜中さんを歓迎、大前所長は「貴重な人材を確保できた上に、若者の背中を押すことができた」と話す。
釜中さんは勤務開始日の1週間前の5月末、自転車で転倒して右ひざを骨折。入院したがリハビリに励み、昨年8月から勤務を始めた。チラシの折り込みなどの立ち仕事に「最初はヘトヘトだった」が、最近は仕事にも慣れ、プライベートでの外出も増えたという。「昔は外に出たくなかったけど、今では毎日が楽しい。外には楽しいことが多いんだな、と思いました。きっかけがあれば変われる」と笑顔で言い切る。
この実績を、美浜町など周辺6自治体も高く評価。今春から引きこもり者支援事業を同法人に委託する予定だ。「若者たちがどんどん成長し、社会に出ていけるステップアップのきっかけになれば」と宮西理事長。「今後は中高年の引きこもり支援にも何か方法論を確立したい」としている。
Source : 国内 – Yahoo!ニュース