旅館やホテルの運営に関わる旅館業法に定められた「宿泊拒否の原則禁止」を、緩和する方向で見直そうとする改正法案が、今月にも召集される国会で審議される見通しとなっている。新型コロナの大流行をきっかけとした動きだが、「社会的弱者を宿泊拒否する口実に使われかねない」と懸念する声が、ハンセン病の元患者や障害者たちから上がっている。背景にはそれぞれの実体験がある。
焦点となるのは旅館業法5条。業者は原則、宿泊を拒否してはいけないと定めた条文で、「伝染性の疾病にかかっていると明らかに認められる」場合などを例外として挙げている。
厚生労働省によると、改正に向けた検討は、新型コロナの流行で従業員の罹患(りかん)を危惧する宿泊業界の声などをもとに始まった。検討会では、「マスク着用を拒否する客に対しても宿泊拒否できるようにしたい」という声や、5条は「客を選ぶ自由を剝奪(はくだつ)している」として改正や撤廃を求める声が業界からあがったという。
まとまった改正法案は、昨年10月に閣議決定された。宿泊拒否禁止の例外に、業者が求める医療機関の受診や体温の確認といった感染対策に正当な理由なく応じない場合を新たに盛り込んだ。また、理不尽な苦情や要求をする「カスタマーハラスメント」(カスハラ)への対応も念頭に、負担が過重な要求を客から繰り返された場合も例外に加えた。業者への制限を緩和し、宿泊拒否を可能とする裁量を広げる内容だ。
全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会は11月、新型コロナのまん延防止やカスハラへの対応などの徹底を柱とするもので、「我々にとって極めて重要かつ大切な法案」として、早期審議・成立を求める声明を多田計介会長名で出した。
一方、法改正への懸念もある。日本弁護士連合会は、現行法のおかげで宿泊が必要な人に安全に夜を過ごす場所が提供され、人の移動の自由が守られていると評価し、宿泊拒否禁止の緩和に反対の立場を小林元治会長名で表明している。
国立ハンセン病療養所「菊池恵楓園」(熊本県合志市)入所者自治会副会長の太田明さん(79)は、ある事件を思い出す。2003年11月、恵楓園の入所者が県内のホテルに宿泊しようとした際、ハンセン病の元患者であることを理由に「他の客が嫌がる」と宿泊を拒まれた事件だ。
ハンセン病は、原因となる細…
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
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