夜のとばりが下り始めた交差点で、信号待ちをしていた中学生3人の背後から小さな男の子が走ってきた。周りに保護者らしき人はいない。
愛媛県立松山西中等教育学校の1年生、山崎蒼(あお)さん、森松香名(かな)さん、谷口遼真さんの13歳の3人は、昨年12月9日午後5時40分ごろ、自転車で下校していた。
男の子に話しかけてみた。「1人?」「お母さんいる?」。4歳の男の子は1人で家を出てきたと答え、「お母さんを迎えに行く」と。母親は300メートルほど離れた小児科医院にいると言うのだ。あたりはもう暗く、車通りも多い時間帯だ。
3人が「ついて行っていい?」と聞くと、男の子は「いいよ」。自転車を押しながら男の子の歩幅に合わせて歩いた。
小児科に着いた。母親はいなかった。ここを訪れてもいないとわかった。
午後6時過ぎ、小児科が警察へ通報した。警察官がパトカーで着いたのとほぼ同じ約20分後、母親から「子どもがいなくなった」と警察に通報があった。
しばらくして、母親が髪を乱し、涙を流しながら、駆け込んで来た。3人に「ありがとうございました」と3回繰り返した。
男の子は平然として、アンパンマンのアニメを見たり、パトカーに乗せてもらったり、楽しそうにしていた。
山崎さんは、母親と連絡が取れるまでは心配するそぶりは見せないようにしていた。「この子も不安になっちゃうかなと思って、アンパンマンの話をしていた。このまま会えなかったらどうなるのかと、内心焦っていました」
森松さんは、一緒に歩いている時、「盛り上がる話をして、できるだけ楽しく『お母さん捜し』をしようとしました」。薄着だった男の子が寒くないか気遣った。「お母さんが来た時はホッとした。声をかけて良かったというのが一番」
谷口さんも男の子に話しかけ続けた。息子の無事を喜ぶ母親の姿を見て、「助けられてよかったなと感じた」。
3人は小学校も同じだったという。「3人いたんで、ちゅうちょせずに声をかけられた」と山崎さんは話した。
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル