大型連休前の金曜日、東京・吉祥寺の美容室で、従業員と客がちょっと変わった会話を交わしていた。
「好きな日本の食べ物は?」
「おすしやすき焼きが好きなんです」
笑顔で話す新人の従業員は、日本で初めて美容師資格をいかして就労した「外国人美容師」だ。
韓国・ソウル出身の李抒珍(イソジン)さん(23)。今春、美容室チェーン「TAYA」を展開する田谷(東京都渋谷区)に入社した。「お客様が100%満足するサービスを提供したい」と話す李さんの日本語はかなり流暢(りゅうちょう)だ。
ソウルで美容室を経営する父の影響で、幼い頃から美容師を志した。店に置かれた雑誌を読み、日本人女性に流行するショートカットの可愛さに憧れた。「韓国はロングが主流。ショートが得意な美容師は少ない」。日本のスタイルを韓国に広めることを夢見た。
2018年に来日し、都内の日本語学校で2年間学んだ後、美容専門学校に入学。ただ、当時は日本で外国人が美容師資格をいかして働く道はなかった。外国人が日本で働ける職種は特定の分野に限られ、美容師は対象外。日本では長年、「資格を取れるのに働けない」状態が続いてきた。
「特定活動」で5年間の在留資格
それが変わったのは、都が国に提案していた国家戦略特区が認められ、「外国人美容師育成事業」として昨年実現したからだ。要件を満たせば、「特定活動」の在留資格が与えられ、5年間、都内の美容室での就労が許可されることになった。
新制度のことを聞き、李さんは「日本で働こう」と思い定めた。
田谷では、シャンプー、カットから接客まで計126項目の技術を5年間で習得させることをめざす。李さんは、客にシャンプーやマッサージをするために必要な社内試験に入社1カ月で合格し、今は1日あたり約15人の客に対応している。
仕事中はメモ帳を常に持ち、韓国語や日本語を織り交ぜ、習ったことをすぐに書き込む。教育係の小野知恵美さんは「仕事熱心で成長意欲が高い。店には良い影響ばかり」と話す。
同社でカットやスタイリングを一人で担う「デザイナー」になるには、2年間の経験が必要という。李さんは仕事後も店に残り、同僚たちと練習を重ねる。「日本で学べることは何でも学びたい」
今回の規制緩和は、業界団体「都美容生活衛生同業組合」(渋谷区)の求めもあって実現した。
同組合によると、狙いは「日…
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル