小出大貴
日本生命保険は5日、営業部長の男性が中小企業の従業員の退職金の一部を国が助成する制度を悪用し、助成金を不正に受け取る方法を顧客企業に指南するよう部下に指示していたことを明らかにした。不正な申請は176社、852人分で、助成金の不正受給は計約2千万円になるという。
この制度は、独立行政法人の勤労者退職金共済機構が運営する中小企業退職金共済制度。自前の退職金制度がない中小企業向けで、事業者が負担する掛け金の一部を国が助成する。
日生の調査では、60代の営業部長の男性は管理職に就いた1988年から、日生がこの制度の紹介活動をやめた2014年まで、部下の営業職員計61人に対し、顧客の中小企業に不正申請の方法を教えるよう指示していた。顧客には、架空の事業会社やうその雇用関係をもとに退職金を申請するよう指南。国の助成金分約2千万円を含め、支払われた退職金は約6600万円になるという。
日生は1980年代から、この制度の紹介を法人営業のきっかけとして活用。各営業部にはノルマがあり、営業職員の販売成績や、この制度への申請実績も部の成績に反映される仕組みだった。日生は、男性がノルマ達成のために不正を画策したとみている。
日生では2014年にもこの制度の同様な不正が社外からの通報で発覚している。今回は会計検査院の調査で不自然な退職金の申請が判明し、発覚した。
日生はこの日、「不正契約等が追加判明したことについて、関係者の皆様に多大なるご迷惑をおかけしましたことを、改めて深くおわび申しあげます」とするコメントを発表。国に不正受給分を全額返済し、男性に返済を求める方針。近く関係者への処分も出すが、内容は公表しない予定だという。
前回の不正と今回の不正との間に関係はないという。14年の最初の発覚時に、今回のケースも含め全件調査などをしなかったことについて、同社関係者は「機構がデータを持っており、こちらが主体の調査はできない」と話している。
機構によると、第一、明治安田、住友、大同、富国の5生保ではいまもこの退職金共済制度の紹介活動をしている。機構の担当者は「件数が膨大で全件調査は現実的でない」とする一方、「今回の件のような特異な兆候は他社では確認されていない」としている。(小出大貴)
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル