菅義偉(すが・よしひで)首相の対露外交は多難な船出となった。プーチン露大統領と初の電話会談を行う29日にロシアは北方領土での軍事演習をぶつけてきた。一筋縄ではいかない露側の対応に、政府高官は「一筋どころか二筋も三筋もいかない」と語った。 首相は北方領土返還を最重要課題に位置付けた安倍晋三前首相の路線を継承する考えを示しており、プーチン氏と個人的関係を築いた安倍氏の力も借りる意向だ。自民党総裁選に勝利した14日には「外交というのは総合力だから、ありとあらゆるものを駆使する中で進めていく」と述べた。 しかし、安倍政権でも対露外交は順風満帆とはいえなかった。安倍氏自身も8月28日に辞意表明した際、北朝鮮による拉致問題、憲法改正とともに北方領土問題を残された課題として挙げ「断腸の思いだ」と語った。 安倍政権7年9カ月の中で最も北方領土返還に近づいたとされるのが、平成30年11月に安倍、プーチン両氏がシンガポールで行った会談だ。両首脳はこの会談で「平和条約締結後に色丹(しこたん)島と歯舞(ほぼまい)群島を引き渡す」とした昭和31年の日ソ共同宣言を基礎にした交渉の加速化を確認し、3年以内に平和条約締結を目指すことで一致した。 日露関係筋によると、安倍氏は首相として最後に行った8月31日のプーチン氏との電話会談で、シンガポール会談の際の合意事項をわざわざ読み上げたという。その上で両首脳は、後継首相とプーチン氏との間でも平和条約交渉を継続することを確認した。 安倍氏が首相に贈った「置き土産」だが、ロシアは今年7月の憲法改正で、領土割譲を原則禁じる条項を盛り込んでもいる。領土返還に向けた見通しは明るいとは言いがたい。(大島悠亮、石鍋圭)
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