来年の東京オリンピック(五輪)・パラリンピックの競技会場への持ち込みを巡り、旭日旗に注目が集まっている。「軍国主義の象徴だ」などとして、持ち込みを禁じるよう求める声に対し、日本政府や東京五輪・パラリンピック組織委員会は「国内で広く使われている」などとして問題視しない方針を明らかにしている。そもそも旭日旗とはどういう旗で、どういう意味があるのか。軍装史に詳しい辻元よしふみさんに聞いた。
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-旭日旗が問題になっています
辻元さん なってますね(笑い)。しかし赤い丸に放射であれば、大漁旗や新聞社の社旗も旭日旗とみなすような議論には違和感を覚えます。
-どう違うのですか
辻元さん 問題は、軍旗としての旭日旗でしょう。これにははっきりした定義があって、帝国陸軍の軍旗(写真上)は、真ん中に配した日の丸に16条の放射です。帝国海軍は日の丸が少し左にずれているが、陸軍と同じ16条(写真中)。戦後、陸上自衛隊は8条に変えました(写真下)。これも旭日旗ですが、あまり見かけませんし、議論の対象にもなっていないようです。一方、海上自衛隊は、今も海軍と同じ意匠を使っています。現在の平和憲法下で制定された、自衛隊法施行令が規定する正式な旗です。もっぱら問題になるのはこれですが、変えるには法改正が必要です。
-なぜ軍旗に旭日が採用されたのですか
辻元さん 鎌倉時代、すでに一般的だった日の丸に、さまざまな形の「足」をつけた「日足紋(ひあしもん)」が原型です。「足」の本数や形状によってバリエーションをつけ、武家の紋章として使われました。帝国陸軍が、16条の日足紋を軍旗として正式に採用したのは1870年(明3)。「陸軍御国旗」と呼ばれ、国旗に準じる位置づけでした。89年には帝国海軍が、日の丸の位置をずらしたものを採用しました。
-16条の意味は
辻元さん 皇室の紋章は32弁の菊です。旭日旗の16条の赤い放射に、白い部分を合わせると32条。旭日旗には「帝国陸海軍は、天皇の軍隊である」という意味が暗にこめられているのです。旭日旗に対する批判は、菊花紋や日章旗に直結しかねないので、安易に譲歩できない問題です。
-なぜ陸自は戦後、16条旭日旗を使わず、海自は使っているのですか
辻元さん 太平洋戦争開戦時の首相は、陸軍大将の東条英機。東京裁判で「平和に対する罪」を問われた軍関係のA級戦犯は、多くが陸軍の軍人でした。陸自は、戦争を主導した陸軍との断絶を強く意識している節があります。陸軍の象徴だった星マークは、陸自では絶対の禁忌です。
一方、海自は、旭日旗だけでなく、今も週末にカレーを食べる海軍伝統の習慣が続いています。音楽隊は「軍艦マーチ」や「海ゆかば」といった軍歌を演奏するなど、多くの文化を海軍から継承しています。発足に海軍の軍人が深く関わったこともあり、帝国海軍の継承者という意識が強いとされます。
-同じ敗戦国、ドイツは戦後、ナチスの象徴、かぎ十字を禁じています
辻元さん しかし、現在のドイツ軍は、12世紀のドイツ騎士団以来の伝統だとして、今も堂々とナチス体制下の軍隊と似た鉄十字マークを使っています。かぎ十字を差し出して、伝統の鉄十字を守った形です。国際的な問題にならなかったのは、十字がキリスト教圏では一般的な意匠だという事情もあるでしょう。
-東京五輪・パラリンピックの競技会場への旭日旗持ち込みについては、どう考えますか
辻元さん なぜ、わざわざ海自の旗をスポーツの大会に持ち込むのか、という声は出るでしょうね。ただ、それが政治的、挑発的な行為かどうかは、主催者や各競技団体の判断に任せましょう。私が疑問に思うのは、丸に放射のパラリンピックのメダルが、旭日旗を想起させ、けしからんといった主張です。丸に放射はすべてダメというのは、いくら何でも無理がある。旭日旗について勉強した上での議論が求められると思います。(聞き手・秋山惣一郎)
◆辻元(つじもと)よしふみ 1967年(昭42)、岐阜市生まれ。戦史、軍装史、服飾史研究家。18年、陸上自衛隊の制服改正に関わるなど、軍装史研究の第一人者として知られる。主な著書に、古代から現代までの軍装や紳士服の歴史を解説する「軍装・服飾史カラー図鑑」(イラストレーターの妻、玲子氏との共著)がある。
Source : 国内 – Yahoo!ニュース
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