川崎市で4日、最終日を迎えた「KAWASAKIしんゆり映画祭」で、上映を1度中止した従軍慰安婦問題を描いた映画「主戦場」を上映した。映画祭の中山周治代表は「主戦場」の上映中に報道各社の取材に応じ、中止と撤回の背景を説明し、上映に踏み切った思いを語った。
【写真】「主戦場」上映の経緯を語る中、涙したKAWASAKIしんゆり映画祭の中山周治代表
中山代表は、上映中止の判断を1度、下したことが、表現の自由の問題が問われる事態に発展したことに「はっきり言って、ビックリしています。こんな小さな我々の団体が、世界を引き受けることになった…みたいな、本当に驚きの毎日だった」と語った。
「主戦場」の上映は、主催のNPO法人KAWASAKIアーツが、配給の東風に対し6月に上映の打診、8月に上映会申込書も出したが、一部出演者から上映差し止めを求めて訴えられている作品であることを受けて、共催の川崎市から上映への懸念が示された。
そのことを受け、映画祭は9月に東風に上映取り消しを伝え、10月27日には上映の見送りを発表した。
その判断に対し、映画界を中心に表現の自由を侵害しているなどと批判の声が多数出た。10月29日には、白石和彌監督と若松プロダクションが「止められるか、俺たちを」と「11・25自決の日~三島由紀夫と若者たち」の上映を取りやめたと発表。さらに是枝裕和監督も、同日の「ワンダフルライフ」の舞台あいさつで「共催者の懸念を真に受けて、主催者側が作品を取り下げるというのは、もう映画祭の死を意味する」と批判したことで、世論を巻き込んでの議論に発展した。
映画祭側は、同30日にオープンマイクイベント「しんゆり映画祭で表現の自由を問う」を開催。約170人の参加者と議論した末、メンバー全員で話し合いを行った。そして、今月2日になって上映中止を撤回し、同4日の最終日に上映すると発表。若松プロも「止められるか、俺たちを」の上映を4日に行うと発表した。
中山代表は「我々が最初に取った判断から、次に取った判断…その場、その場で、我々なりに、一番いい答えを出したつもりです。私も、ずいぶん批判されました。ただ、素人集団なりに一生懸命、判断した結果、どう受け止めたかは分からないが、まさかこういう大きなことになるとは思っていなかった」と率直な思いを語った。
その上で「そこでの判断は、世界に伝わることを意識していましたし1つ、1つ一生懸命やったつもりです」と誠意を持って対応したことを強調した。
中山代表は「市民、ボランティア団体として高校生、主婦、お年を召した方、会社員まで70人弱、活動しています」と主催者の体制を説明。その上で「毎日のお客さまの対応に加え、表現の自由の問題、お客さまの安全をどう守ろうかと、1人1人が心を引き裂かれんばかりに、モラルジレンマに陥っていた」と現場の苦悩と苦労を吐露した。
そして「表現の自由を考える集会を主催し、意見を受け止め、頭がパンクするくらい考えた。4日の最終日に上映するか、しばらく時間がたって条件が整ってからやるのか、上映しないのか…主に3択だったが結局、その日に話し合いが終わらなかった」と振り返った。
その上で「10月31日にインターネットの不在者投票を含めて投票し、ぜひ期間中にやりたいと、ベストの答えだと姿勢を出した。お客さまの安全の問題がクリアできないと、やらないよと言っていたので苦慮した」と、最後は全員投票で決めたと明かした。
中山代表は「いろいろ皆さんに、ご迷惑をおかけしました。特に配給、製作会社、さまざまな映画人にご心配をおかけしまして、本当に申し訳なく思っています。お客さまにも、ゆっくり、純粋に映画を楽しむ場を提供しようと思ってやって来た。いつか、そういう場が出来ればいいと思っています」と謝罪した。
川崎市からは今回も1300万円の予算のうち、600万円を負担してもらっており、中山代表は「25年、ともに歩んできたパートナー」だとした。ただ、今回の上映中止に当たり、観客の安全の確保を理由にした映画祭だが、川崎市から示された“懸念”を考慮したことへの批判は多い。
今後の川崎市との関わりについて聞かれ、中山代表は「やはり市は、我々市民活動を応援し下から支える立場と考えています。市が、今回のことをどう考えるか、我々は知りませんが、応援する立場はぜひ続けていただいて、我々も、どうやったら市民活動を、より盛り上げていくかだけを考えたい」と関係継続を望んだ。その上で「市にこうしてくれ、ああしてくれというのは全くないです」と言い、その場を後にした。【村上幸将】
Source : 国内 – Yahoo!ニュース
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