茨城県の水戸市街から笠間市方面へ、国道50号を車で走る。平日もにぎわうイオンモールを通り過ぎて約3分、左手に「食堂」「焼肉・生姜焼」などと書かれた立て看板と平屋の建物が見えた。
薄暗い店に入ると、陶器や古そうな電化製品が並んでいた。クレーンゲームは動いておらず、ガラス扉は全開だ。「どれも100円」「ゲームで取るよりず~とお得」とぬいぐるみが売られていた。昔通った駄菓子屋に似た、どこか懐かしい匂い。お昼時を過ぎたからか店内に客や従業員は見当たらず、国道を走る車の音が響いてくる。
奥には4人掛けの木製テーブルと、壁に貼られた手書きの食事メニューがずらりと並んでいる。まるで昭和に戻ったよう。
厨房(ちゅうぼう)から出てきたのは、店主の箱田富司さん(90)。おすすめの焼肉定食を注文すると、大きな豚肉4枚がキャベツに載って運ばれてきた。甘辛いタレが食欲をそそり、白飯が進む。
箱田さんは旧友部町(現笠間市)出身。大学費用を稼ぐために22歳で商店を始めた。1980年ごろには電器屋を開店したが、安価な輸入製品の台頭で、約7千万円を損失。1年で店を閉め、ドライブインを始めた。
「お客さんの食べ終わったお皿がきれいになっているのがうれしい」
店には食事や土産物のほかに、ゲーム機や売れ残った電化製品を置いた。偕楽園の観梅シーズンは、1日100万円以上を売り上げたこともあった。
午後3時ごろ、作業着風の中年男性2人が来店した。「生姜焼定食」と「そばとカレーライスセット」を慣れた様子で注文し、パチンコ台に座った。
2人は、茨城―山梨間を行き来するトラック運転手という。店外からは開店しているかの判断が付かずに通り過ぎていたが、数カ月前に初来店した。店の味を気に入り、今は「全メニュー制覇」がひそかな楽しみらしい。2人は80年代発売のドライヤーを手に取って、「懐かしい」と顔を見合わせていた。箱田さんは男性2人が出て行くと「いつもありがとうございます」と深々と頭を下げた。
商業施設の開業などにより、客足は減少し、現在は1日10人前後だ。後継ぎはいない。それでも「お客さんの食べ終わったお皿がきれいになっているのがうれしい」から続けてきた。
目立つことなく懸命に店を続ける箱田さんの姿と、店を包むどこか懐かしい昭和の雰囲気がある。箱田さんは「今の時代にもうかる仕事じゃないが、100歳までは続けるつもりでいます」と照れくさそうに笑った。(小島弘之)
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フジヤドライブイン 水戸市杉崎町1755。常磐道水戸インターチェンジから車で10分。営業時間は午前10時~午後9時(日によって変更あり)。年中無休。問い合わせは同店(029・259・5382)へ。
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
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