死者が1300人を超え「パンデミック」の事態に陥っているニューヨーク市。
「たった10日前まで元気だったのに」
ニューヨーク在住のライター、黒部エリさんは4月2日、友人が新型コロナウイルスに感染して入院し、深刻な状態だと知り言葉を失った。Facebookでは近くのスーパーに買い物に出たというのポストを最後に更新されていなかった。
新型コロナウイルス感染者には、感染の恐れから見舞いも許されない。「なんとか生き延びて欲しい」そう黒部さんは祈るように語る。
「こんなことになるとは、2週間前には思っていませんでした」。
3月3日、黒部さんは人がひしめき合うタイムズスクエアで、いつものように取材していた。新型コロナは、まだ「遠い国」の出来事だった。ニューヨークでは、ブロードウェイミュージカルのチケット売り場は混み合っていたし、人々は普通に生活していた。
しかし、あれよあれよという間に事態が急変する。
「それが一週間経ったところでガラッと変わりました。まず日本の雑誌からレストラン取材を依頼されたのですが、相手がクローズ(閉店)して連絡がつかなくなりました。また他の案件も、もはやエージェントが機能していないようで、連絡がつかない事態になっていました。
日本ではまだふつうに働いていて取材ができるものとみなされていたので、ニューヨークの逼迫した空気との落差を感じました」と、環境の急変を振り返る。
ニューヨークは、ニューヨーク州知事令により3月22日夜から出勤停止、自宅待機となっている。
そして、在宅を強いられて10日あまり経った今、友人が感染。ウイルスがひたひたと目の前に迫ってきているのを感じている。
先が見通せない日々に「いつ自分も感染して容体が急変するかもわからないという状況で暮らすことが心を圧迫している」と話す。
今の日本の状況がニューヨークの2週間前に見えるのは、黒田さんだけではない。
ニューヨークに約30年住む、ウェディングプランナーの千葉恵津子さんも「まさかこんなことになるとは」と語る。
千葉さんは、自宅に籠もってリモートワークをしている。窓から景色を眺めたり、部屋に花を生けたりして、前向きに生活を送ることを心掛けているという。たまに、生活必需品の買い物や散歩のため外に出る。必需品の買い物は許されているし、運動は奨励されているからだ。
ただ、外の光景は今まで見たことのないマンハッタンだ。
地元に愛されているスーパーTrader Joe’sは、1回に入る客の人数を制限しており、数100メートルにわたって並んでいる。客は、人同士の間隔を開けるソーシャルディスタンス(フィジカルディスタンス)をとり、2メートルほどあけている。買い物はこれまで通りで、生鮮食料品は十分にあるが、消毒薬などはないという。酒店も「必需品」として認められており、開店している。
レストランは開いているところもあるが、デリバリーや持ち帰りのみだ。スターバックスやレストラン店内の椅子やテーブルは片付けられ、店内に客がとどまらないようにしている。
ジムは全て閉鎖されているため、日課の運動として、近くのセントラルパークへ散歩に出る。ランニングや散歩など屋外での運動は許されているので、この時期、桜の花が美しいセントラルパークは、ランニングする人がちらほらいるという。
“Stay Strong! ”とフェイスブックなどで友人らとやりとりし合うのが、慰めだ。籠っている中でもニューヨーカーは元気を見せるが、10日も経ち、先行きの見えない現実に、人々が疲弊してきているのを千葉さんは心配する。
営業休止に追い込まれたレストラン、バー、ホテル、小売店などの従業員が軒並み解雇されている。
アメリカでは3月28日までの1週間で664万8千件となり、過去最大だった前週からさらに2倍に急増、過去最高を記録し続けている。失業保険の申請が多すぎてネットがパンクしたため、申請者ごとに申請時間を政府が指定している状況だという。
千葉さん自身も、5月以降の仕事のスケジュールが見えない不安の中にいる。
それだけではなく社会の不穏さを敏感に感じている。
どこが安全でどこが危険かわからない中、自由に出歩けず、先が見通せない中、人々の緊張は張り詰めている。そんな時、レストランの店の窓に板張りがされているのに気づいたという。
「(人々のやり場のない不満が)暴動などを起こしてしまうのを恐れ始めているのではないか」と千葉さんは懸念を吐露する。 (ハフポスト日本版・井上未雪)
Source : 国内 – Yahoo!ニュース