自宅以外に生活や仕事の場を持ち、複数の拠点を行き来しながら暮らす「多拠点生活」が若者を中心に広がり始めている。コロナ禍でテレワークが普及し、観光地などで休暇を楽しみながら働く「ワーケーション」もよく聞くようになったが、そのさらに先を行く自由な生活スタイルだ。鉄道・航空会社や地方自治体で、旅費や家賃を支援する動きも出ている。
「滞在先で、人間関係の幅が広がるのが一番の魅力。将来は、パソコン1台で仕事しながら世界中を旅したいですね」
元出版社社員の朱(しゅ)明奈さん(31)が、多拠点生活を始めたのは今年8月。英語の参考書のライターや英会話の講師などが仕事だが、コロナ禍を機に業務をオンラインに切り替え、東京の自宅に常にいる必要はなくなった。
拡大する和歌山県白浜町のゲストハウスで仕事をする朱明奈さん=10月、本人提供
長崎・五島列島を皮切りに岡山や香川、和歌山の温泉付きゲストハウスなどを最長2週間ごとに巡ってきた。冬場は沖縄にも滞在する予定。通勤時間もなく、居酒屋で知り合った友人と意気投合して翌日、観光地を一緒に巡ることも。ネットで知り合った友人と直接会って、新たな仕事を得た経験もある。
利用しているのは、毎月通常1万6千~8万2千円(税込み)払えば、国内外247都市400カ所(10月末現在)のホテルや旅館に5日~1カ月泊まれる「HafH(ハフ)」というサービス。長崎市のベンチャー「カブクスタイル」が昨年に始めたもので、朱さんのような「完全リモートワークの人の利用が多い」(広報)。7~10月の新規会員数は4カ月連続で過去最高を更新したという。
東京都の「アドレス」も、約90カ所の住居を月4万円(税別)で使えるサービスを提供。6~8月の新規会員数はコロナ禍以前の4~5倍に。増えているのはやはり、20~30代の会社員という。
関西を中心に古民家を改修した宿泊施設を手がける「NOTE(ノオト)」(兵庫県丹波篠山市)も多拠点生活者向けの施設に乗り出す。年内には、同市内に仕事場とゲストハウスをセットにしたサービスを始め、来春以降は地方に自炊用キッチンやコインランドリーを備えた施設をつくる予定だ。
拡大する多拠点生活向け施設を手がける計画を持つ「NOTE」の藤原岳史社長=兵庫県丹波篠山市
これまで、全国20地域87棟の宿泊施設を改修してきたが、コロナ禍で利用が伸び、8~9月の1施設あたりの売上高は前年比5割増になったという。藤原岳史社長は「増えるニーズの受け皿をつくりたい」と強調する。
ネックの交通費、支援する動きも
多拠点生活のデメリットの一つ…
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Source : 社会 – 朝日新聞デジタル