静かなブームとなっている北海道の「木彫り熊」。スイスの土産品を手本に木彫り熊が作られるようになって約100年がたつ北海道南部の八雲町で6月10~22日、住民有志によるイベント「クマまつり」が開かれる。時代を超えて受け継がれてきた木彫り熊があちこちで見られるほか、熊彫り体験、トークショーなど、プログラムは多彩だ。
函館市から北に約65キロ離れた八雲町。八雲での木彫り熊づくりは、ここで農場を開いていた尾張徳川家の19代当主徳川義親(よしちか)がスイスで求めた木彫り熊を伝えたのがはじまりだ。土産品の側面だけでなく、昭和期には作家性の強い柴崎重行や茂木多喜治といった作り手が輩出した。
今回のまつりの運営の中心を担うのは青沼千鶴さん(43)。司法書士をしながら、2021年から木彫り熊の魅力を発信するギャラリー「kodamado(コダマド)」を開いている。クマまつりは年2回開催してきて今回で5回目。
函館市の隣の七飯(ななえ)町で育った青沼さんは09年、夫の仕事の関係で八雲に移り住んだ。まちを盛り上げようと、野外でろうそくをともして音楽や食べ物を楽しむ「キャンドルナイト」などのイベントを有志と開いてきた。
移住当時から木彫り熊に夢中だったわけではない。イベントを一緒にやってきた有志と5年前、町内の築100年以上の空き店舗をリノベーションして、日替わりで食べ物を出す店を開いた。空き店舗には柴崎の作品など十数体が置かれたままになっていた。「こんな素晴らしいものを埋もれさせてはならない」。所有者から保管を託され、同じような木彫り熊を集めはじめた。
青沼さんは20年にスイスを旅し、義親が木彫り熊を購入したとされる店を訪れた。「木彫りのまち」を打ち出したまちづくりに感銘を受けた。
「八雲に受け継がれた木彫り熊の魅力を、町の力にしたい」
kodamadoを開き、木彫り熊をテーマにした「クマまつり」を始めた。活動はだんだんと町内に知れ渡り、「うちの熊も飾るかい」と言ってくれる町民や、木彫り熊をモチーフにしたお菓子を開発する店も出てきた。
今回のまつりでは「まちで探すウチのクマ展」と題し、家庭で大事にされてきた木彫り熊を各所で展示する。有名作家だけでなく、町民が趣味で彫り続けたものもあり、八雲に根付いた文化そのものを感じられる企画だ。
そのほか徳川義親ゆかりの旧徳川公園を巡るツアー、町木彫り熊資料館の大谷茂之学芸員のギャラリートーク、木彫り熊作家の小熊秀雄さんのワークショップなど盛りだくさんだ。
詳しくはkodamadoのホームページ(https://kodamado.com/)で見られる。(野田一郎)
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル