大畠正吾
大分県国東市は、27年前に温泉宿泊施設の建設のために買い取った土地の登記をせず、登記簿上35人だった土地所有者が相続で395人へと10倍以上に膨れ上がった問題の解決のため、大分地裁に民事訴訟を起こす。将来の土地売却には所有権を市に移す必要があるが、市は「数が膨大で対応しきれない」として、民法の規定による解決を図りたい考えだ。
市によると、問題を抱えた施設は「国見温泉 あかねの郷」。合併で国東市となる前の旧国見町が1995年、町営施設としてオープンした。和・洋室など計12室や日帰り温泉を備え、2018年度は約2500人が宿泊した。
旧国見町は94年2月、施設建設のため、山林など25筆の土地を約1500万円で購入。13筆は売り主と旧国見町が共同で所有権移転登記をしたが、山林共有組合から購入した10筆と個人から購入した2筆の計約2万7400平方メートルは登記していなかった。
組合から購入した10筆は、それぞれ20人以上の組合員が所有権を共有していた。これを含め、未登記だった土地の所有者は計35人だった。登記しなかった理由は不明だが、市の担当者は「登記簿の日付は明治や大正時代で、所有者の多くは亡くなっており購入当時から相続人が多数いたためではないか」と推測する。
市が将来の土地売却に備え、権利関係を確認していた2019年、未登記が発覚。これらの土地は今年5月時点で海外在住者を含む395人に相続されていた。市は住民票などで全員の住所を把握したが、個別に所有権移転の協力を依頼するのは困難と判断。土地を10年ないし20年占有すれば自分の所有にできる民法の「時効取得」などが認められるよう裁判に頼ることを決めた。
提訴後は裁判所から相続人全員に訴状が送られる。異議が出なければ市の所有権が認められる可能性が高く、市だけで登記できるようになる。
市は開会中の定例議会に、弁護士費用165万円を盛り込んだ一般会計補正予算案を提案。三河明史市長は「私も報告を受けて驚いた。ちゃんと手続きをしていなかった行政の責任で本当に申し訳ない」と話している。(大畠正吾)
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル