本当に面白い本って何だ 名物書店員、「売れる本を売る」からの脱却

 書店が各地で姿を消している。昨年には、書店ゼロの市区町村が全国の26%に上るという調査結果も出た。ジュンク堂書店で四半世紀のあいだ店長や副店長を務め、反ヘイト本フェアで知られた名物書店員の福嶋聡さんは、店の書棚からはヘイト本を外さないと公言する。そこから見える、デジタル時代の本屋そして本の役割とは。

本屋ないと本当に困る?

 ――全国で書店の閉店が相次ぎます。八重洲ブックセンター本店など大型書店も閉店しましたね。

 「かつて、『まちの本屋』にとって、どんどん進出してくるチェーンの大型書店は『悪役』でした。日本全体でこれだけ本屋が減っていく中、もはや悪役にすらなれなくなったと言えるのかもしれません。ただ、書店がなくなって『寂しい』というのと、なくなって『困る』というのは違う。読者ももう、そんなに困っていないのではないでしょうか」

 ――いえいえ、困ります。

 「たしかに新聞記者さんは困るかもしれないけれども……。本屋に行く習慣が当たり前だった時代は去ったと言えます。著者や編集者も大学の先生も、アマゾンで本を買っていて、書店にはそんなに行かなくなっているのでは。一方、大型書店の相次ぐ閉店の理由として、建物の建て替えという理由がさしあたり前面に出てきていますが、実は本屋自らが招いた事態であるとも思います」

 ――というと?

 「一言で言えば『スマート化』です。POSデータ(販売記録)で前日までの売り上げが一目瞭然になり、売れ筋の本がよりはっきりし、1990年代ごろから本屋が金太郎アメ化していきました」

 「でも、売り上げデータだけに縛られていたら、最大公約数的な本しか見えません。書店、特に多くの本を置ける大型書店は、社会の変革器であるべきです。売り上げデータだけに頼っていたら、今ある社会の欲望や格差の増幅器にしかなりえません。それはデータを使うことが悪いのではなく、使う人間の考え方の問題だと思います」

「過去のデータを追うだけでは…」

 ――大型書店に行っても、児童書コーナーが参考書ばかりになるなど、置く本の幅が狭くなったと感じることがあります。

 「目先の売り上げだけ考えたら、店によっては参考書とコミックばかり置いておくことになるかもしれません。思想や社会問題の本は総量としてはそんなに売れないので数字で比べると切られます。でも、そうして切っていった後に残る売れ行きの良い本は大型書店でなくても置いている。結果的に読者が大型書店に行くモチベーションを下げてしまい、自分で自分の首を絞めているのではないかと感じます」

 「売れた本のデータは残っても、売っていない本のデータは残らない。そうして、店に居ついていた客や売れたはずの本を売り逃しているかもしれないですよね」

 ――たしかに、それは実証で…

Source : 社会 – 朝日新聞デジタル

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