紙芝居師としてパラスポーツの魅力を子どもたちに伝えている神前はるかさん(31)は24日、東京都渋谷区の代々木公園であるパラ聖火リレーの点火セレモニーに参加する。「選手がたくさん金メダルを取ることを願って、金色の杖で参加します」。生まれつき右足の股関節に障害がある神前さんが前向きになれたのは、パラスポーツに出会ったからだ。
声優の専門学校を卒業した2012年、同校の紙芝居講師だった山田一成さん(42)に誘われ、プロ紙芝居師集団「渋谷画劇団」に入った。手ほどきを受けながら、「ヤムちゃん」「かみはる」で公演を重ねた。
浴びた冷たい言葉
日常生活では、杖で外出すると周囲の言葉や視線が刺さった。道を歩いているだけで「邪魔だよ。はやく歩け」。タクシーで身体障害者手帳を見せると、運転手に「チッ、障害者かよ」と言われた。「障害者として見られたくない」と3年ほどは杖なしで舞台に立っていたが、併発した変形性股関節症が進行し、鎮痛薬も効かなくなった。かなづちで太い釘をたたいて刺されるようなズーンと響く激痛で、2本の杖がないと歩けなくなった。
「紙芝居、もうできません」。神前さんが言うと、山田さんから意外な言葉が返ってきた。「パラスポーツって知ってる?」
週末に体験会に行くと、車いすで笑ってバスケットボールをしている人たちがいた。足がない人が杖で走ってサッカーをしていた。雷に打たれたような衝撃を受けた。「障害があってもできるんだ。障害者に偏見を持っていたのは、私自身だ」
隠さなくなった杖
数週間後、初めて杖で舞台に立った。緊張で杖が震えたが、事故でけがをしたアナウンサー役を演じ切った。「かっこよかったよ」。公演後、親子が声をかけてくれた。「杖、隠さなくていいんだ」。自分の障害が認められた瞬間、涙があふれ出た。
山田さんは笑う。「地味な杖しか持たんかったのに、この日からどんどん派手になっていった」。神前さんは「杖は私の個性。ヤムちゃんがずっと言ってたことがやっと分かった」。右手には赤、左手には金色の杖がキラキラ光る。
「ジャジャーーン。2本の杖をついております! かみはるです」
紙芝居の冒頭はこんな自己紹介で始める。スポーツが得意な少年が車いすバスケの選手からパラ競技について学ぶお話など、5種類の作品がある。息の合った掛け合いで笑いを誘いながら、障害の種類や程度によって「クラス分け」をして戦う工夫などを解説する。
公演500回以上 オンラインでも
15年末以降、2人で全国の幼稚園から中学校まで500回以上、パラスポーツの紙芝居を披露してきた。新型コロナウイルスの影響で子どもたちを前にした公演は減ったが、オンライン配信にも積極的に取り組む。28日午後1時40分からは、渋谷区主催のパラリンピックオンラインイベント(https://www.merrysmileshibuya.online/
「障害のことを明るく気軽に話せる社会にしたい。東京大会がそのきっかけになれば」。神前さんは期間中、テレビにかじりつき、大会後に作る新作に生かすつもりだ。(河崎優子)
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
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