地震時に、大規模火災の恐れや建物倒壊で避難が困難になる危険が高い「新重点密集市街地」。古い住宅の解体費用を自治体が助成して建て替えを促すなど、解消へ向けた取り組みが全国各地で進む。だが、住民の高齢化や、地権者の合意を得られないなどで解消が進まない場所も多い。
東京都内で最大面積の新重点密集市街地を抱える品川区。区内を通る東急池上線の荏原中延(えばらなかのぶ)駅から徒歩4分の場所に今年2月、マンション「アトラス品川中延」が完成した。地上13階建てで、敷地面積は5697平方メートルに及ぶ。
「火事への不安がなくなり、前よりずっといい」。3LDKの部屋に移り住んだ男性(71)は話す。かつてこの一帯は、計85戸の住宅がひしめき合う木造密集地域だった。
男性の生家を含め、多くが4戸で1棟の木造長屋だった。関東大震災後、復興住宅として建てられたという。人口増加に伴って、長屋を戸建てに建て替えたり、道路に部屋や風呂場が建て増しされたりしたという。道路の幅はほとんどが2メートル未満で、消防車や救急車は入れなかった。男性は火事に備えて、六つの部屋に火災報知機を一つずつ設置。消火器も二つ置いていたという。
都内の新重点密集市街地の面積は2012年3月時点の1683ヘクタールから、18年度末には399ヘクタールまで減った。解消に寄与しているのが、都が12年に始めた「不燃化特区」制度だ。古い木造住宅の撤去費の補助や固定資産税の減免などで、毎年約40億円ほどを区に助成する。建て替えの負担を軽くすることで、民間企業の再開発を呼び込んだ。
現在、都内19区の53地区、計約3千ヘクタールが特区に指定されている。アトラス品川中延がある中延2丁目地区も含まれ、総建設費100億円のうち38億円が助成金だ。区の公募で住民合意に向けた支援業務に大手不動産会社が選ばれ、14年3月に地権者らが準備組合を設立。火災への危機感が強く、5年で完成した。
マンション1階には集会所を完備。区との協定で、災害時には帰宅困難者を受け入れる。備蓄倉庫や防災井戸、かまどベンチも備え、目の前の小学校とともに地域の防災拠点としての役割も担う。
ただ課題もある。マンションには地権者140人のうち6割以上が無償で移り住んだが、戸建てを希望するなどの理由で離れる高齢者も多かった。マンションに入った男性(70)は「全員が納得するのは難しい。それでも燃え広がらない町づくりを進めていかないと」と話す。(金山隆之介)
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Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
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