【小塚かおるの政治メモ】れいわに食われた立憲、「衆院50~100選挙区で野党共闘」
「動くかもしれんよ」
参院選直後の7月末に国民民主党の小沢一郎衆院議員を取材した時のこと。インタビューで「太郎くん(れいわ新選組・山本太郎代表)の行動は結果として立憲民主党や国民民主党など野党を目覚めさせる効果はあった」と語った後の帰り際、冒頭の言葉を繰り出したのだった。
その後の展開はまさに、その通りになっている。
8月5日に立憲民主の枝野幸男代表が国民民主と衆院会派「社会保障を立て直す国民会議」(社保)、社民党に衆院での統一会派結成を呼びかけた。これを受け、国民民主の玉木雄一郎代表は同15日、衆参両院で統一会派を結成するよう逆提案。そして同20日、二度目の枝野・玉木会談で衆参両院での会派合流で合意した。
同22日、野田佳彦前首相が代表を務める社保も立憲・国民の統一会派に加わることを決めた。社民は衆院では加わらないものの、すでに立憲民主と統一会派を組んでいる参院ではそのまま残留する。
「会派」とは国会内でのグループだ。現状10月4日召集とされる臨時国会から、立憲、国民、社保は1つの大きなグループとなって、安倍政権との論戦に挑むことになる。
統一会派は国会内限定だが、その先には1つの「政党」への合流も視野に入る。
今年1月下旬に国民民主と自由党が衆参で統一会派を結成、4月下旬に両党は合流した。最初から合流含みだった自由党のケースと今回の統一会派を同じ基準で語ることはできないものの、統一会派が政党合流への「ステップ」となり得ることは、永田町関係者の誰にも異論はないだろう。
枝野代表は立憲民主を立ち上げた2017年10月以来、「政党の離合集散には与しない」と繰り返し言ってきた。玉木代表が「自民党に代わる政権を担う選択肢を作る」として昨年来、幾度となく統一会派や野党結集を呼び掛けても、枝野代表は反応しなかった。それが一転、枝野側からの統一会派の打診である。
枝野代表の真意を測りかね、野党内にもメディアの野党担当記者にも、枝野代表の「本気度」に懐疑的な見方が根強い。「国民民主には『原発ゼロ』を主張する立憲民主とは一緒にやれないと考える議員が少なくない。野党をグチャグチャにして、立憲の一人勝ちを狙う、これまでの延長線上の動きじゃないのか」という声すらあるほどだ。
だが、枝野代表に近い関係者を取材すると「その見方は全然違う。彼はハナから野党結集を決めていたと思う」と話す。舵を切ったのではなく既定路線で、ずっとタイミングをはかっていたというのだ。その背景は次のようなものだ。
<自民党と対決するには、1対1の対決の構図を作ることが最低条件なのは参院選の1人区を見ても明らか。全選挙区が1人区の小選挙区制度の衆院選ならなおさらだ。枝野氏の政治手法は昔から一貫してリアリスト。現実的な答えがそうならばそれに突き進む>
<ただ今回は立憲民主党の結党の経緯を考えると一気に野党再結集とはいかなかった。民進党がまるごと希望の党に合流するはずが、一部が「排除」されて立憲を作り、その立憲を支えてくれたのは『パートナーズ』と呼ばれる市民団体などリベラル左派の人たち。希望の党が名前を変えた国民民主党と一緒になるには、そうした人たちや党内の感情論が収まって、理解してもらえるまでの時間が必要だった>
<参院選で立憲は一昨年の衆院選時と比べ比例票を300万票も減らし、実態は敗北。立憲への期待感はれいわ新選組にとって代わられた。次は衆院選。参院選直後の今がタイミングと判断して仕掛けた>
立憲と国民と社保の統一会派は衆院117人、参院60人の規模となる。2009年に民主党が政権交代した際も、2012年に自公が政権に返り咲いた際も、120人規模から300人規模へ躍進することでの政権奪取だった。そう考えると、バラバラの弱小野党が、統一会派結成によって、ようやく政権を狙える規模になったと言える。
その先の1つの政党への合流という次のステップに進むには、政策の一致などで紆余曲折があったり、何人かこぼれ落ちる議員がいるかもしれないが、来たる衆院選を見据え、「結集しなければ与党に勝てない」というのがマジョリティではないか。
8月28日の朝、ラジオ日本の番組に出演した枝野代表は、「11月解散を折り込んで準備している。こういう枠組み、考え方で選挙後に連携するということを提示する」と話し、連立政権を想定した衆院選での政権構想作りに踏み込んだ。そして「ポイントとなる50~100選挙区はなんとか一本化して、一騎打ちの構図をつくりたい」とも話した。
同日の昼、枝野代表の姿は岩手県盛岡市にあった。岩手県知事選(9月8日投開票)で現職の達増拓也氏を応援する街頭演説で、枝野代表に加え、玉木代表、共産党の志位和夫委員長、社民党の福島瑞穂副党首の野党4党が揃い踏みしたのだった。
この4党に社保に所属するなどの無所属議員やれいわを加えた「閣外協力も含む連立政権構想」となるのだろうか。前出関係者は「枝野氏はそう考えている」と断言する。
ただし、枝野代表がこれから現実路線を進むとなると、原理主義的な左派リベラルなど立憲内部からも批判の声が上がったり、マスコミもここぞとばかりに「変節」などと書き立てるかもしれない。立憲立ち上げ以来、枝野代表は群れず、相談もあまり広げずに決断するケースが多い。これにはワケがある。
昨日までの路線を現実に即していきなり変更するときにズブズブの周囲との関係があると思い切れないからだ。「枝野氏は冷たい」などといった評判が立つのはそこである。民主党時代には、同じく弁護士でリアリスト政治家の仙谷由人氏(故人)のような盟友がいたが、今は立憲内には見当たらない。余計に独裁者に映り、枝野代表の本当の意図が党内に伝わりにくい状況なのだろう。
今後、自公は当然「先祖返り」「数合わせ」とネガティブキャンペーンするだろうし、安倍首相は「民主党の悪夢再び」と批判するだろう。だが、自民と公明も改憲など基本政策が違っていても平然と連立政権を維持している。枝野リアリズムによる野党統一は、これと真っ向対決できるまでに進化するだろうか。
■小塚かおる(日刊現代ニュース編集部長)
1968年、名古屋市生まれ。東京外国語大学スペイン語学科卒業。関西テレビ放送、東京MXテレビを経て、2002年から「日刊ゲンダイ」記者。その間、24年に渡って一貫して政治を担当。著書に『小沢一郎の権力論』、共著に『小沢選挙に学ぶ 人を動かす力』などがある。
Source : 国内 – Yahoo!ニュース