史上初めて核兵器を全面的に禁止する「核兵器禁止条約」(核禁条約)が22日に発効する。核超大国の米国では、「核兵器なき世界」の理念の継承を表明するバイデン新政権が始動する。条約の発効や米国の政権交代は、停滞し続けてきた核軍縮を動かすことができるか。
核禁条約は、あらゆる核兵器の開発、実験、生産、保有、使用を許さず、核で威嚇することも禁じた初めての国際条約。国連加盟国の6割にあたる122カ国・地域の賛成で2017年7月に採択された。批准国が50カ国・地域に達したため、法的な効力を発することになった。核軍縮の交渉義務を課す代わりに米ロ英仏中の5カ国だけに核保有を認めている核不拡散条約(NPT)とは発想が異なり、核兵器そのものを非人道的で不法と見なす。
対人地雷やクラスター爆弾の禁止条約と同様に、志を同じくする国家とNGOが連携して国際世論を動かす「人道的アプローチ」で成立した。条約締結を先導した国際NGO「核兵器廃絶国際キャンペーン」(ICAN)は17年にノーベル平和賞を受賞した。
核兵器廃棄の検証など核廃絶を進める具体的な方法は、発効から1年以内に国連事務総長が招集する締約国会議で決めるとする。法的拘束力が及ぶのは批准国だけで、条約に背を向ける核保有国やその同盟国は縛られないが、「核は違法」という規範が広がることで、核保有国は核兵器を持ち続けることへの説明責任が強まるとICANや有志国は期待している。
条約の前文では、核兵器の使用による犠牲者(ヒバクシャ)と核実験被害者の苦痛に留意すると明記され、広島、長崎の被爆者だけでなく、世界の核実験被害者の支援や環境汚染の改善を批准国が協力して進めることも定めている。
菅義偉首相は1月7日の記者会見で、条約について「署名する考えはない」と改めて表明。締約国会議には、批准していない国でもオブザーバーとして参加できるが、オブザーバー出席に関しても「慎重に見極める必要がある」との考えを示した。(武田肇)
核兵器禁止条約の前文
本条約の締約国は、国連憲章の目的と原則の実現に貢献することを決意する。
核兵器の使用によって引き起こされる壊滅的な人道上の結末を深く懸念し、そのような兵器全廃の重大な必要性を認識し、全廃こそがいかなる状況においても核兵器が二度と使われないことを保証する唯一の方法である。
偶発や誤算あるいは意図に基づく核兵器の爆発を含め、核兵器が存在し続けることで生じる危険性に留意する。これらの危険性は全人類の安全保障に関わり、全ての国が核兵器の使用防止に向けた責任を共有していることを強調する。
核兵器の壊滅的な結果には十分に対処できない上、国境を越え、人類の生存や環境、社会経済の開発、地球規模の経済、食糧安全保障および現在と将来世代の健康に重大な影響を及ぼし、ならびに電離放射線が母体や少女に与える不均衡な影響を認識する。
核軍縮が倫理的責務であり、核兵器なき世界の実現と維持が緊急を要し、これが国家および集団的な安全保障の利益にかなう最高次元での地球規模の公共の利益であることを認識する。
核兵器の使用による犠牲者(ヒバクシャ)ならびに核兵器の実験によって影響を受けた人々に引き起こされた受け入れがたい苦痛と被害に留意する。
核兵器に関わる活動が先住民族に与えた大きな影響を認識する。
全ての国は国際人道法や国際人権法を含め、適用される国際法を常に順守する必要性があることを再確認する。
国際人道法の原則や規則を基礎とする。とりわけ武力紛争の当事者が戦時において取り得る方法や手段を選ぶ権利は無制限ではないという原則、区別の規則、無差別攻撃の禁止、均衡の規則、攻撃の予防措置、過度な負傷や不要な苦痛を引き起こす兵器使用の禁止、自然保護の規則。
いかなる核兵器の使用も武力紛争に適用される国際法の規則、とりわけ人道法の原則と規則に反していることを考慮する。
いかなる核兵器の使用も人道の原則や公共の良心に反することを再確認する。
各国は国連憲章に基づき、国際関係においていかなる国の領土保全や政治的独立、あるいはその他の国連の目的にそぐわない形での武力による威嚇や使用を抑制しなければならないことや、国際平和と安全の確立と維持は世界の人的、経済的資源を極力軍備に回さないことで促進されることを想起する。
1946年1月24日に採択された国連総会の最初の決議ならびに核兵器の廃絶を求めるその後の決議を想起する。
核軍縮の遅い歩みに加え、軍事や安全保障上の概念や教義、政策における核兵器への継続的依存、ならびに核兵器の生産や維持、近代化の計画に対する経済的、人的資源の浪費を懸念する。
法的拘束力のある核兵器の禁止は、不可逆的、かつ検証可能で透明性のある核兵器の廃棄を含め、核兵器なき世界の実現と維持に向けて重要な貢献となることを認識し、その実現に向けて行動することを決意する。
厳密かつ効果的な国際管理の下、総合的かつ完全な軍縮に向けた効果的な進展の実現を視野に行動することを決意する。
厳密かつ効果的な国際管理の下での核軍縮のための交渉を誠実に行い、完結させる義務があることを再確認する。
核軍縮と不拡散体制の礎石である核不拡散条約(NPT)の完全かつ効果的な履行は国際平和と安全を促進する上で極めて重要な役割を果たすことを再確認する。
核軍縮と不拡散体制の核心的要素として、包括的核実験禁止条約(CTBT)とその検証体制が極めて重要であることを再確認する。
国際的に認知されている非核兵器地帯は関係諸国間の自由な取り決めを基に創設され、地球規模および地域の平和と安全を促進し、核不拡散体制を強化し、核軍縮の目標実現に向けて貢献していることを再確認する。
本条約のいかなる規定も、無差別に平和目的での原子力の研究と生産、利用を進められるという締約国の奪い得ない権利に影響を及ぼすと解釈されてはならないことを強調する。
女性と男性双方の平等かつ完全で効果的な参加は、持続可能な平和と安全の促進と達成に不可欠の要素であり、核軍縮における女性の効果的な参加を支持し強化することを約束する。
あらゆる側面における平和と軍縮教育、ならびに現代および将来世代における核兵器の危険性と結果についての意識を高める重要性を認識し、本条約の原則と規範の普及に向けて取り組むことを約束する。
核兵器廃絶への呼び掛けでも明らかなように、人道の原則の推進における公共の良心の役割を強調し、国連や国際赤十字・赤新月運動、その他の国際・地域の機構、非政府組織、宗教指導者、議員、学界ならびにヒバクシャによる目標達成への努力を認識して、次の通り協定した。(田井中雅人訳)
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
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