桃太郎伝説が残る山梨県大月市の観光スポット「桃太郎神社」で、さい銭箱が盗まれる被害があった。27日で発生から1カ月になるがさい銭箱は戻らぬまま。神社関係者は「『鬼の目にも涙』という言葉もある。返してほしい」と話し、犯人の情けに望みを託す。
神社は、桃太郎伝説を生かした街おこしに取り組む市民グループ「大月桃太郎連絡会議」が昨年1月、大月駅近くの空き店舗に作った。入り口の木造の鳥居をくぐると、赤鬼像がにらみを利かせている。その赤鬼の足元に置いてあったさい銭箱が盗まれた。
事務局長の箕田(みのた)雅友さん(73)によると、さい銭箱は木製で、横約15センチ、縦と奥行きはともに約7センチ。市販品で数百円程度という。
「事件」は9月27日午後2時ごろに起きた。通行中の知人女性が、さい銭箱らしきものを抱えて神社から外に出る男性を見つけ、道路の向かいで印章店を営む箕田さんに通報。箕田さんと女性は立ち去る男を追いかけたが近くの路地で見失った。直後に神社をのぞくと、さい銭箱はなくなっていた。女性は取材に「とてもショックです」と話す。
現場は商店街だが空き店舗が目立ち、利用客もまばら。そんな市街地に少しでもにぎわいを取り戻したくて、桃太郎伝説にまつわる紙芝居や絵などを制作する約40人の会員が7年前から活動してきた。神社は無宗教の観光施設で、伝説を紹介する資料や地図を少しずつ増やしてきた。
「真っ昼間にこんなことが起きるなんて信じられない」と箕田さん。かつての人通りを知るからこそ、悔しさもひとしおという。翌日、神社の入り口に「心当たりのある方は申し出てください。桃太郎軍団が必ず滅ぼすぞ!」と強い口調の呼びかけ文を貼りだした。
盗まれたさい銭の金額は不明だが、8月下旬に約2500円分の小銭を回収したばかり。昨年は1年間で約5千円が寄せられたという。被害金額は少額とみて、警察に被害届は出していない。
さい銭は電気代や資料制作費に充てているが、運営は赤字という。箕田さんは「桃太郎は正義と勇気のヒーロー。桃太郎伝説を大切にする場所で盗みをはたらくとは悲しい」と肩を落としている。(池田拓哉)
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大月の桃太郎伝説
山梨県上野原市から大月市にかけ、旧甲州街道沿いに犬目、鳥沢、猿橋という地名が並ぶ。これらが「鬼退治を決意した桃太郎が、街道で犬・キジ・猿と次々に出会って家来として引き連れていった」という物語を連想させるとして、街おこしに生かされている。大月市も取り組みを後押しし、市産業観光課に「大月桃太郎課」との愛称を付けている。
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル